離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 アリシアはベッドの縁に腰を下ろし、ぼんやりと天蓋を見上げる。

「明日の夜は、もう逃げられないわ」

 その声は虚ろで、不安を隠しきれない。
 そんなアリシアを見つめながら、エレナは穏やかに微笑んだ。
 
「明日はきっと、お疲れでしょう。伯爵様はぐっすりお休みになりますわ」
「そうかしら?」

 エレナはふふっと微笑を深めて、何気ない調子で続ける。

「とびきり美味しいワインをご用意いたします。きっと、ご自身が寝床へ入ったことさえ覚えていらっしゃらないほどに」
「エレナ……あなた、もしかして」
「親戚に有能な薬師がおりますから。ご安心ください。上質な睡眠薬ですわ」

 アリシアは思わず小さく息をのんだが、そのあと力が抜けるように微笑んだ。

「ありがとう。エレナがいなければ、私は今頃どうなっていたか……」

 エレナはそっとアリシアの手を取り、包み込むように優しく握る。

「アリシア様、今はあまり悩みすぎず、お体を大事になさってくださいませ。寝不足は思考力を低下させますし、何よりお肌にもよくありませんわ」
「ええ、ありがとう。そうするわ」

 アリシアは安堵の笑みを浮かべ、その夜はわずかに眠ることができた。

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