離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 グレゴリーが鞭を手に取り、にやりと不気味に笑う。

「最初からこうしておけばよかったんだ。生意気な娘が」

 その言葉と同時に、鞭が高々と振り上げられる。
 アリシアは反射的に目をぎゅっと閉じ、全身を強張らせた。唇を噛みしめ、迫りくる痛みに耐える覚悟で身をすくめる。

 だが、何も起きなかった。
 時間が止まったような沈黙の中、アリシアは恐る恐る目を開ける。

 グレゴリーの腕は、誰かに掴まれていた。
 その人物は、肩からマントをまとい、仮面で顔を隠している。背の高い威圧的な男だった。

「何者だ、貴様っ……!」

 グレゴリーが怒声を上げて腕を振りほどこうとするが、仮面の男の手はまるで鋼のようにびくともしない。
 男は一言も発さず、無言のままグレゴリーの手から鞭を奪い取り、地面へと叩きつけた。

「神聖な儀式を妨げるとは、誰かこやつを捕らえよ! 牢へぶち込め!」

 グレゴリーが叫ぶや否や、衛兵たちが一斉に飛び込んできた。
 だが男は一歩も引かず、素手で兵士の槍を受け止めると、そのまま体ごと投げ飛ばし、次々となぎ倒していった。

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