離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 呆然と口を開けたままのグレゴリー、腰を抜かしかけているマンブル伯爵。
 そしてアリシアも、信じがたい光景にただ立ち尽くしていた。

 そのときだった。
 仮面の男が静かにアリシアの方へと向き直り、手を伸ばしてきた。

 避ける間もなく、アリシアは仮面の男に腕を引かれ、そのまま軽々と抱き上げられる。
 目を丸くして固まるアリシアを抱えたまま、男はそのまま大聖堂の扉へ向かって一直線に走り出した。

「花嫁がさらわれたぞ!」
「ハハハッ……最高の余興だ!」
「おいおい、伯爵はどうするんだ?」

 会場内は笑いと興奮が渦巻き、誰もがこの事態を娯楽の一幕のように見物している。
 アリシアは男の腕の中で小さく身を縮めた。
 目まぐるしく変わる状況に、思考が追いつかない。
 ただ、男の腕の中は温かく、恐怖よりも安心感に包まれている。

 脳裏に浮かんだのは、あの感謝祭の夜。
 肩を抱き寄せられて、花火を見上げたあの狭い屋根裏部屋でのことだ。

(この体温、この腕の感触……まさか)

 胸の奥が熱くなる。
 アリシアは何も言わず、そっと目を閉じた。

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