離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスはアリシアの感触を確かめるように、何度も髪や肩や背中を撫でる。しかし、彼は突如びくりと震え、表情をわずかに歪めた。

「……旦那様?」

 異変に気づいたアリシアが不安げに訊ねる。

「もしや、お怪我をされているのですか?」
「たいしたことはない。獣に噛まれたようなものだ」
「そんなっ……!」
「平気だ。君の顔を見たら、痛みなど吹き飛んだ」

 フィリクスは強がるように笑顔を見せる。だがその顔は、どこか苦しげだった。
 その姿に、アリシアの目からまた涙があふれる。

「旦那様……次にお会いしたら、私は一番に、この気持ちをあなたに伝えようと思っていました」

 アリシアは頬を赤らめながら、フィリクスをじっと見つめて、震え声で告げる。

「私は、あなたのことが……好きです!」

 フィリクスは驚いて目を見開く。
 アリシアは涙を拭おうともせず、ただまっすぐに思いをぶつけた。

「この気持ちを伝えられずに、後悔ばかりの日々を送っていました……でも、もう後悔したくありません」
「アリシア……」
「好きです。旦那様……あなたを、お慕いしております」

 フィリクスはゆっくりと両手を伸ばし、アリシアの頬に触れた。
 髪を、涙を、優しくなぞるその指に、アリシアは心地さを感じて微笑み、目を閉じた。

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