離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 やがて料理が運ばれてきて、アリシアは自然とフィリクスの皿にそれを取り分けた。
 フィリクスは「ありがとう」と微笑みながら受けとり、そのやりとりを見ていた周囲が一斉に冷やかした。

「仲睦まじいですなあ」
「ご夫婦の仲がいいと、領地も我々も安泰だ」
「ああ。我々のことなど気にせず、どうぞ仲良く」

 ふたりは同時に赤面した。
 そんな穏やかな空気の中、突如テーブルの上にドンッと音を立てて酒の器が置かれた。
 フィリクスが視線を上げると、そこには険しい顔で睨みつけるディーンの姿があった。

 一瞬、店内がしんと静まる。
 やがてディーンはわずかに口角を上げ、挑発めいた声で言った。

「命を助けてもらった礼です。一杯、奢りますよ。領主様」

 周囲が息を呑む。
 アリシアも不安げに見上げていたが、フィリクスは目を丸くしたあと、穏やかな笑みを浮かべて器を取った。

「ああ。ありがたくいただくよ」

 あっさりとした答えにディーンは肩透かしを食らったように目を瞬かせ、悔しそうに顔をしかめた。
 その瞬間、店内がどっと笑いに包まれた。

「領主様の方が何枚もうわてだな!」
「ディーンは100年かかっても敵わねぇよ!」

 茶化されたディーンは顔を真っ赤にして声を上げる。

「うるせぇよ!」

 悔しそうだが、わずかに笑みを浮かべるディーンの表情に、アリシアは安堵のため息を洩らした。
 メルアはアリシアの肩に手を添え、にこやかに微笑む。

「今日も平和だね」

 その言葉に、アリシアは満面の笑みで頷いた。

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