離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 それはある晴れた日のこと。
 太陽の光が静かに降り注ぐ侯爵家の庭園にて。
 薔薇の咲く小道の先に白いベンチがあり、フィリクスとアリシアはふたりで並んで腰かけていた。
 ふたりの横にはレースのクロスとバスケットの籠がある。
 バスケットの蓋を開けると、チーズやハム、野菜を挟んだサンドイッチ、甘い香りのキャラメルナッツアップルパイが顔を覗かせた。

 普段忙しくてなかなかふたりの時間が取れないことを憂慮したフィリクスに、アリシアが提案したのは庭園でのピクニックだった。

「たまには、こういう食事もいいな」
「私、ピクニックが大好きなんです。両親とよく森へ出かけて、こうして食事をして楽しんでいました」

 思い出を語るアリシアに、フィリクスはサンドイッチを手にして、静かに頷く。

「では、今度丸一日休みが取れたら森へ行こう」
「それは楽しみです」

 アリシアは切り分けたアップルパイを小さな皿に移す。
 フィリクスはそれを見て、わずかばかり目を輝かせた。

「これは君が焼いてくれたのか?」
「はい。旦那様に食べてもらいたくて」
「俺はこれが大好きなんだ。初めて食べたときに、感動で打ち震えてしまった」
「そ、そんな……それはちょっと、大袈裟です」
「本当のことだ」

 あまりにフィリクスがベタ褒めするから、アリシアは思わず目を伏せて、頬を赤く染めた。

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