離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 フィリクスはアップルパイを手で掴んで豪快にかじりつく。
 その様子をアリシアは頬を赤らめながら見つめた。
 フィリクスはゆっくりと噛みしめながら、その顔には笑みが浮かぶ。

「ああ、やはり……君のアップルパイは本当に美味い」
「ありがとうございます」

 アリシアが安堵したように微笑む。
 実は毎回焼き加減の調整に苦労しており、味も含めて美味しいかどうかは食べてみないと不安だった。

「少し気がかりなことがある」

 フィリクスがそんなことを言うので、アリシアはどきりとした。

「何でしょうか? 味に何か……」
「いや。俺がこれを独占してもいいのだろうかと思って」
「えっ……?」

 フィリクスがあまりにも真面目な顔で訊くので、アリシアはふっと笑みがこぼれた。

「はい。旦那様だけの特別なメニューですから」
「そうか。特別……いい響きだ」

 フィリクスは照れくさそうにしながら、アップルパイを平らげる。
 アリシアの胸中は幸せに満ちていた。

(こんな言葉をくださるなんて、1年前は思いもしなかったわ)

 フィリクスと口を利かない日々は結構長い。それでも、その時間を埋めるように、彼はなるべくアリシアと会話の機会を設けてくれる。

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