離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 グレゴリーが去ったあと、執務室ではセインがこの2日間調べた内容をフィリクスに報告していた。

「男爵の所持品からは明確な証拠は見つかりませんでした。ただ、鞄の隅にこんなものがありました」

 セインがハンカチの包みを開けると、そこには茶葉の欠片のようなものが数片あった。

「これは?」
「匂いからするとおそらく違法薬物に使われる植物かと思われますが、きちんと分析する必要があります」

 フィリクスはしばらくそれを凝視したあとセインに向き直る。

「よく見つけたな」
「目がいいもので」
「勘ぐられなかったか?」
「旦那様の見事な演技のおかげで、男爵はすっかり気を許していましたから、余裕でしたよ」

 フィリクスはわずかに目を伏せて、ぽつりとこぼした。

「……ではない」
「はい?」
「何でもない。すぐに調査を進めてくれ。事実ならグレゴリーが闇取引に関与している証拠になる」
「かしこまりました」

 セインが一礼して退室すると、執務室は静寂に包まれた。
 フィリクスは執務室の窓からしばらく曇り空を眺めた。
 ぼんやりと思い出すのはグレゴリーに言ったアリシアに関する自身の発言だ。

「演技ではない」

 フィリクスが呟いたその言葉は、誰もいない執務室で静かに消えていった。

< 52 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop