離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 グレゴリーは2日ほど滞在し、侯爵家のもてなしに満足した様子で帰っていった。
 彼の乗った馬車を見送ったあと、アリシアはフィリクスに向き直り、そっと頭を下げた。

「丁寧に対応してくださり、ありがとうございました」

 フィリクスは「いや」と短く返事をした。
 急にそっけなくなった彼の態度に、アリシアは複雑な気持ちになる。
 やはり演技だったのかもしれない。
 わかっていたが、少し落胆した。
 しかし、この際なので言いたいことは口にすることにした。

「旦那様、以前急に食事をキャンセルされたのは、夜盗の事件があったからなのですね。私ったら事情も知らずに平然と過ごしていました」
「気にしなくていい。俺が言わなかっただけだ」

 突き放すような言い方に、アリシアは唇を引き結んで俯く。
 いつもならここで黙ってしまうが、今日はそうしたくなかった。
 もう少し、踏み込んでみたくなった。

「言ってくだされば、事情がわかって納得しましたのに」

 それを聞いたフィリクスは驚いた顔でアリシアを見つめた。

「君は怒っていたのか?」

 心底、意外だという反応だ。

「理由がわからなくて、ずっと悩んでいたんです」
「そうか。それは、悪かった。君を怖がらせたくなかったから」

 困惑の表情で頭をかくフィリクスを見て、アリシアは緊張がほぐれた。

(私は嫌われているのではなかったのかしら?)

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