離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 馬車の外は荒れた状態だった。地面に真っ赤なリンゴや熟したオレンジが散乱している。どうやら荷馬車と接触したらしく、持ち主らしき男が御者に詰め寄っていた。

「商品だぞ! どうしてくれるんだ!」
「と言われましても、そちらが飛び出してきたのでしょう?」
「こんなところを走っているそっちが悪い! ここは商人の通る道だぞ」
「そんな決まりはないはずですが」

 怒声を上げる男と困惑する御者のあいだに、フィリクスが立ち入った。
 フィリクスは男に謝罪する。

「こちらの不注意もある。弁償しよう」
「当たり前だ! 全額払えよ!」

 騒ぎを聞きつけた人々が集まってくる。
 やがてどちらに非があるかを問う声まで聞こえてきた。

「わかった。すべて買い取ろう」

 フィリクスがそう言うと、男はとりあえず納得したようだった。
 馬車が走れるかどうか確認をした御者は、車輪が壊れていることを知り、フィリクスに報告した。

「車輪の軸が歪んでしまっています。修理に出したほうがいいでしょう。代わりの馬車を手配しますので、近くの宿でお待ちいただけますか?」

 フィリクスは「わかった」と言って、荷馬車の持ち主にも同行してくれるよう頼んだ。代わりの馬車が来るまで、弁償するための手続きを書面でおこなうつもりだった。

「アリシア、悪いが馬車を降りてくれないか?」

 呼びかけられて顔を覗かせたアリシアを見た荷馬車の男は、驚愕の表情で声を上げた。

「あ、あんた、メルアのとこのアリシアじゃないか!」

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