離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 馬車の中に再び静寂が広がり、馬の蹄の音だけが規則的に伝わってくる。
 しかし突然、御者の悲鳴じみた声とともに車体が大きく傾き、馬の嘶きが響きわたった。
 ギイーッと車輪がきしむ音と同時に衝撃が起こり、アリシアの体がぐらりと揺れる。とっさに手を伸ばしたフィリクスが彼女の肩を支えた。

「大丈夫か?」

 驚いて顔を上げたアリシアの目の前には夫の顔。
 これまでにないほど間近で接触して、アリシアは戸惑いと恥じらいに満ちた顔で赤面した。

「……失礼、しました」
「いや。何かあったのだろうか?」

 フィリクスは視線を窓の外へ向ける。
 しかし彼の手はがっちりアリシアの肩を抱いている。
 アリシアの胸中は嵐のようにざわめいた。

 窓の外では御者が誰かと声高に話しているようだ。言い争う声が聞こえてくる。

「様子を見てくるから、君はここから出ないように」
「……はい」

 フィリクスがようやく離れてくれたので、アリシアは胸を撫で下ろし、安堵のため息を洩らした。

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