離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 少しのあいだ沈黙が流れ、怪訝そうな顔をしたフィリクスが首を傾げて訊ねた。

「感謝祭に行くということではないのか?」
「あ、そうですね。てっきり、断られたのかと……」

 アリシアの答えに、フィリクスは眉をひそめる。
 すると、それまで静かに控えていたセインが、おもむろに口を開いた。

「旦那様、差し出がましいようですが、今のは私でも勘違いしますね」
「え?」

 フィリクスが呆気にとられていると、セインのとなりでエレナが穏やかな声で続けた。

「アリシア様はとても楽しみにしていらっしゃいますわ」

 その言葉にアリシアは赤面し、エレナに困惑の表情を向ける。
 するとエレナはにっこり笑ってみせた。

「そうだったのか。では、明後日ともに町へ……」

 フィリクスはそう言いかけてから、少し間をおいたあと、きちんとアリシアの目を見据えて言った。

「では、俺と一緒に感謝祭を過ごしてもらえないだろうか?」

 その言葉にアリシアは驚き、言葉に詰まった。
 彼は選択権を妻に与えてくれたのだ。
 そんなフィリクスの気遣いにアリシアは胸が熱くなり、自然と笑みがこぼれた。

「はい。ご一緒させてください」

 アリシアがそう答えると、フィリクスは安堵したように肩を落とし、わずかに口角を上げた。
 セインは真顔で肩をすくめ、エレナは満面の笑みを浮かべる。
 使用人たちもにこにこしながらその光景を見つめていた。

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