離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 一曲終わったあと、ダンスを終えた人々はひと息ついた。
 やがて別の演奏が始まり、広場は再び賑やかな音楽に包まれる。
 そんな中、直立不動の姿勢を崩さないセインを見たエレナが、ふいに声をかけた。

「あなたも踊る?」
「遠慮する」
「あら、ダンスに自信がないのかしら?」
「たわごとを」
「そうよね。あなた、子爵家の令息ですもの。一応、社交ダンスは習っているでしょう?」
「忘れた」
「思い出させてあげましょうか?」
「結構だ」

 軽口を交わすふたりを見ながら、アリシアはセインの横顔をじっと見つめた。普段は無表情で冷たい印象を与える彼が、ほんの少し頬を赤らめているように見える。

(セインのこんな顔、初めて見たわ)

 祭りの高揚感もあって、アリシアは無性に彼に話しかけたくなった。

「私も、セインのダンスが見てみたいわ」

 そのひとことに、セインは真顔のままアリシアをちらりと一瞥し、そしてエレナへと視線を戻した。

「こんなおままごとに付き合うのは一度だけだ」

 セインはそう言ってエレナの前に進み出ると、静かに彼女の手を取った。

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