離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 空が少しずつ暗くなってきた。町のあちこちに明かりが灯り、夜の気配が包み込んでいく。それでも町の喧噪が消えることはなく、人々はそわそわとした様子で広場に集まっていた。

「今夜は花火が上がるそうですね」
「ええ。花火師の人たちは今日のために長いあいだ準備をしてきたの。みんな、それを一番の楽しみにしていると聞いたわ」

 どこへ行っても人が多く、なかなか落ち着く場所を見つけられずにいると、エレナがふと思い出したように言った。

「実はとっておきの場所があるんです」

 案内されたのは、先ほど立ち寄ったエレナの知人の宿だった。バルコニーのテラス席はすでに観覧客で埋まっている。
 エレナに連れていかれたのは、小さな屋根裏部屋だった。

「ここは普段、物置として使われているんですが、お願いして入れてもらいました」

 多少埃っぽいが、どこか落ち着く空気が漂っている。
 小さな窓からは夜空がよく見える。

 次の瞬間、ドンッという音とともに部屋がぱあっと明るく照らされた。

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