離婚を切りだしたら無口な旦那様がしゃべるようになりました
 夫のフィリクスは無言のまま、じっとアリシアを見つめている。
 アリシアはわずかに震える手を握りしめ、唇をきゅっと引き結ぶ。
 フィリクスの反応が怖かった。

「理由は?」

 あまり話すことのないフィリクスが低い声で訊ねた。
 アリシアは緊張しながら自分の思いを吐露した。

 嫁いできてから一度も寝室をともにしていないこと。
 それどころか食事さえ一緒にとらないこと。
 侯爵家のことに関わらせてもらえないこと。

 そして最大の理由が夫であるフィリクスがほとんど目を合わせてくれず、会話もしてくれないことだ。

 アリシアがドキドキしながら返答を待つと、フィリクスはひとことだけ言って立ち上がった。

「離婚はしない」


 フィリクスが出ていったあと、アリシアは拳を握りしめたまま俯いた。
 夫婦らしい生活はなく、言葉さえ交わさない。こんな関係で結婚生活を続けて何の意味があるのだろうか。 

 必要ないのなら、なぜ手放してくれないのか。
 アリシアは胸の奥で冷たい決意を固めた。

 部屋へ戻ったアリシアはクローゼットの奥に隠しておいた箱を開けた。
 そこにはこれまで貯めてきた金が詰まっている。

 話し合いがだめなら、強制執行するしかない。
 アリシアは神殿に赴くことにした。

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