秘密の多い後輩くんに愛されています
後輩の上田くん
カタカタとキーボードを叩く音が鳴り響くオフィスで私、白鳥舞花はパソコンの画面と過去のデータ資料の交互に視線を移しながら頭を抱えていた。
食に関わる仕事がしたいと思い、ゆきのフーズに入社したのが四年前。
企画部に配属されてからは、自社の商品をより多くの人に知ってもらうにはどうすればよいのかを日々、考えている。
私が現在、任されているのは新商品のバームクーヘン発売に向けてのPR企画だ。
デスクには商品開発部から届いた数種類のバームクーヘンが並んである。
「舞花が行き詰まるなんて珍しいわね」
そう言って隣のデスクからひょっこりと顔を覗かせたのは同期の坂下侑里。
整った顔立ちに肩の上で切りそろえられたミルクブラウンの髪とダブルパールのピアスがよく似合う彼女は我が社のマドンナ的存在。
同じ部署で同期ということもあり、私たちは毎週のように飲み歩く仲だ。
「新商品のPRってやっぱり既製の商品の時よりも色々と考えることが多くて」
「興味を持ってもらうってそう簡単じゃないからね」
「侑里ってスイーツ系の新商品の企画いくつか担当してたよね? 今日、飲みにいった時にまた話聞かせてよ」
「いいよ〜。じゃあ、定時に仕事終わらせなきゃね」
「ははは、頑張るよ」
PR企画を考えつつ、市場調査に行った時の資料をまとめようとパソコンに視線を戻した時だった──。
「清水! お前は二年目になるのにまだこんな簡単な仕事もできないのか」
オフィスに部長の怒号が響き、社員達の間に緊張感が走った。
筒状に丸めた書類を机に叩きつけながら「これだから今の若い奴は」と続ける部長を前に肩を震わせていたのは入社して二年目になる清水麗奈だ。
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