秘密の多い後輩くんに愛されています
「戻ってきたら、また侑里に釘を差してもらわないと」
「ちょっと舞花……嘘でしょ」
侑里の呆れた声を背に私は部長のもとへと歩きだす。
清水さんの隣に立つと、彼女は心底驚いたような表情をしていた。
「舞花先輩……どうして」
「部長、清水は私が責任を持って指導します」
「白鳥〜、お前がそうやって甘やかすからいけないんじゃないのか。部下ひとりまともに教育できない立場で恋愛なんかにうつつを抜かしている場合か?」
オフィスには部長の乾いた笑い声が響く。
私と暁斗の関係を知っていた部長は「なぁ?」とわざとらしく声を張り上げた。
「それは……!」
「今のセクハラですよね」
隅のデスクで黙々と仕事をしていた暁斗が机を強く叩きつけながら立ち上がる。
「セ、セクハラだと?」
「あと、日頃からパワハラと捉えられる言動がいくつも見受けられます。これ以上、事を荒立てるのであればハラスメント窓口に相談させていただきますが」
「……チッ、若造が偉そうに」
捨て台詞を吐いた部長は私と清水さんを「下がれ」と手で払いのけるとたばこを吸いにオフィスを出た。
部長がいなくなった瞬間、拍手が沸き起こる。
「上田かっこよかったぞ」
「本当は先輩の私たちが言わなきゃいけないことなのにごめんね」
「お前も部長の態度には腹立ってたんだな」
同僚たちの声に暁斗は「別に」と一言言ってから続けた。
「部長に興味はないです。俺は、白鳥先輩を侮辱する部長が許せなかっただけなので」
拍手が止むと、今度は指笛が鳴り響く。