あなたと私を繋ぐ5分
異様に長かった夏の終わりは、長い雨とともにやってきた。
ここ三日ほど続く雨のおかげで、気温はぐっと下がり、ようやく長袖の出番となった。
春先に着てからしばらくタンスの奥で眠っていた長袖のカットソーを引っ張り出すと、ちょうど時計の針が二十二時を差した。
月・水・金の三日間。今夜も五分間のささやかな楽しみが始まる。
散らばったタンスの中身をざっと避け、スマホを引き寄せると、トップ画面のアイコンをタップする。
すぐに冬の穏やかな海を思わせる波の音が流れ始めた。
余計なBGMは入らない。ただ静かに波打ち際に打ち寄せる波の音に、やがて密やかな声が重なる。
「皆さんこんばんは。潮騒です。本日もお聞きいただき、ありがとうございます」
潮騒。その名の由来は不明だが、彼の声のイメージにぴったりと合っていると思う。
低くて、穏やかで、心を洗うような澄んだ声に、美咲は今日もうっとりと耳を傾ける。
「今日も短い時間ですが、あなたのお耳をお貸しください。それでは今日の小さな幸せのかけら、です――」
簡単な挨拶を済ませ、早速本題に入る。
おたよりも募集していなければ、感想すら送ることはできない。ただただ、彼が発見した些細な良かったことを聞く。ほぼ五分間のポッドキャストだ。
美咲がこのポッドキャストを知ったのは、約半年前、今年の初めだった。
楽しみにしていたラジオ番組が終了してしまい残念に思っていたところ、「最近はポッドキャストも面白いよ」という噂を耳にして、初めて聴き始めたのだ。
ラジオ番組と違って、ポッドキャストは誰でも配信できるから、プロから素人まで含めればいくつもの番組がある。
そんな数ある配信番組の中から美咲が見つけたのは、この「波間の五分」だった。
恐らく一般人と思われる男性が、一回わずか五分、生活の中で発見した小さな幸せのかけらを語る番組だ。
リスナーからの投稿が紹介されるわけでもなく、ただただ彼の感じたことを聞く時間。
一回五分・週に三回なので、一週間に十五分、美咲はただただ彼の言葉を聞き、思考を波間に揺蕩わせる。
今日はスマートフォンから流れる控えめな波の音より、外で打ちつけている雨の音が大きい。
美咲は少しだけボリュームを上げ、『潮騒』の声に耳を傾けた。
ここ三日ほど続く雨のおかげで、気温はぐっと下がり、ようやく長袖の出番となった。
春先に着てからしばらくタンスの奥で眠っていた長袖のカットソーを引っ張り出すと、ちょうど時計の針が二十二時を差した。
月・水・金の三日間。今夜も五分間のささやかな楽しみが始まる。
散らばったタンスの中身をざっと避け、スマホを引き寄せると、トップ画面のアイコンをタップする。
すぐに冬の穏やかな海を思わせる波の音が流れ始めた。
余計なBGMは入らない。ただ静かに波打ち際に打ち寄せる波の音に、やがて密やかな声が重なる。
「皆さんこんばんは。潮騒です。本日もお聞きいただき、ありがとうございます」
潮騒。その名の由来は不明だが、彼の声のイメージにぴったりと合っていると思う。
低くて、穏やかで、心を洗うような澄んだ声に、美咲は今日もうっとりと耳を傾ける。
「今日も短い時間ですが、あなたのお耳をお貸しください。それでは今日の小さな幸せのかけら、です――」
簡単な挨拶を済ませ、早速本題に入る。
おたよりも募集していなければ、感想すら送ることはできない。ただただ、彼が発見した些細な良かったことを聞く。ほぼ五分間のポッドキャストだ。
美咲がこのポッドキャストを知ったのは、約半年前、今年の初めだった。
楽しみにしていたラジオ番組が終了してしまい残念に思っていたところ、「最近はポッドキャストも面白いよ」という噂を耳にして、初めて聴き始めたのだ。
ラジオ番組と違って、ポッドキャストは誰でも配信できるから、プロから素人まで含めればいくつもの番組がある。
そんな数ある配信番組の中から美咲が見つけたのは、この「波間の五分」だった。
恐らく一般人と思われる男性が、一回わずか五分、生活の中で発見した小さな幸せのかけらを語る番組だ。
リスナーからの投稿が紹介されるわけでもなく、ただただ彼の感じたことを聞く時間。
一回五分・週に三回なので、一週間に十五分、美咲はただただ彼の言葉を聞き、思考を波間に揺蕩わせる。
今日はスマートフォンから流れる控えめな波の音より、外で打ちつけている雨の音が大きい。
美咲は少しだけボリュームを上げ、『潮騒』の声に耳を傾けた。
< 1 / 33 >