引きこもり令嬢の契約婚約
プロローグ
ルングレン山のふもとにある、ブライト王国の王都。
王城にほど近い、高位貴族の屋敷が立ち並ぶ区域の一角に、シーグローヴ侯爵家はあった。
「セアラ、いい加減にせんか! 毎日毎日屋敷にこもりおって!」
セアラの部屋の扉を開け放ち、侯爵家の主であるブレンダン・シーグローヴが怒りをあらわにしている。
面長で鼻筋の通った彼は、黙っていれば渋みと風格のあるダンディな紳士なのだが、口うるさいという一点において、女性からの評価が下がっている。
セアラは眼鏡を直し、毎日飽きもせずに小言を言いに来る父を、冷めた目で見つめる。
「お父様、そんなに大きな声を出さずとも聞こえます」
「聞こえていても聞く気がないじゃないか。お前、いつまで引きこもっている気だ? 自分がいくつかわかっているのか? もう十八だぞ? 他の家門の令嬢は皆、夜会に出て婚約者を見つけているというのに」
この国では、婚約者を決めるのは、適齢期となる十六歳以降とされている。貴族は政略結婚が常ではあるが、権力は流動的なものであり、あまりに幼少期から婚約者を決めると問題になることが多いからだ。
十六歳になると王家主催で行われる夜会への出席が許されるようになる。高位貴族の令息や令嬢は、そこで社交をしながら、家柄的にも相性的にも最適な相手を見つけ、結婚するのだ。
しかしセアラは、ただの一度も夜会に出席したことがない。
二大侯爵家といわれるシーグローヴ侯爵家の娘だということを考えれば、あり得ない状態であり、父が怒るのも当然と言える。
しかし同時に、十八年間も自分の父親をやっているというのなら、セアラが社交に向かない人間だということくらい、わかってほしいとも思うのだ。
「……私はまだまだ結婚する気はありませんし、結婚には家柄も考慮されるのでしょう? お父様が選んだらよろしいではありませんか」
セアラの丸投げ発言に、シーグローヴ侯爵の声は、さらに怒気を帯びた。
「言ったな? どんな男が来ても文句言うなよ!」
「あっ、でもすぐは嫌で……」
セアラの返事を聞くことなく扉は閉められ、父の苛立った足音が遠ざかっていく。セアラはため息をひとつついた。
王城にほど近い、高位貴族の屋敷が立ち並ぶ区域の一角に、シーグローヴ侯爵家はあった。
「セアラ、いい加減にせんか! 毎日毎日屋敷にこもりおって!」
セアラの部屋の扉を開け放ち、侯爵家の主であるブレンダン・シーグローヴが怒りをあらわにしている。
面長で鼻筋の通った彼は、黙っていれば渋みと風格のあるダンディな紳士なのだが、口うるさいという一点において、女性からの評価が下がっている。
セアラは眼鏡を直し、毎日飽きもせずに小言を言いに来る父を、冷めた目で見つめる。
「お父様、そんなに大きな声を出さずとも聞こえます」
「聞こえていても聞く気がないじゃないか。お前、いつまで引きこもっている気だ? 自分がいくつかわかっているのか? もう十八だぞ? 他の家門の令嬢は皆、夜会に出て婚約者を見つけているというのに」
この国では、婚約者を決めるのは、適齢期となる十六歳以降とされている。貴族は政略結婚が常ではあるが、権力は流動的なものであり、あまりに幼少期から婚約者を決めると問題になることが多いからだ。
十六歳になると王家主催で行われる夜会への出席が許されるようになる。高位貴族の令息や令嬢は、そこで社交をしながら、家柄的にも相性的にも最適な相手を見つけ、結婚するのだ。
しかしセアラは、ただの一度も夜会に出席したことがない。
二大侯爵家といわれるシーグローヴ侯爵家の娘だということを考えれば、あり得ない状態であり、父が怒るのも当然と言える。
しかし同時に、十八年間も自分の父親をやっているというのなら、セアラが社交に向かない人間だということくらい、わかってほしいとも思うのだ。
「……私はまだまだ結婚する気はありませんし、結婚には家柄も考慮されるのでしょう? お父様が選んだらよろしいではありませんか」
セアラの丸投げ発言に、シーグローヴ侯爵の声は、さらに怒気を帯びた。
「言ったな? どんな男が来ても文句言うなよ!」
「あっ、でもすぐは嫌で……」
セアラの返事を聞くことなく扉は閉められ、父の苛立った足音が遠ざかっていく。セアラはため息をひとつついた。
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