玄関を開けたら、血まみれの男がいました

馬鹿みたいな生活

 それからというもの、大貫は「ひまわり」の美術スタッフになった。
 塗り絵を作ったり、掲示物を作ったり。レクリエーションの一環として、お絵描き教室まで開いている。
 大貫は生き生きと働いた。
 介護のスタッフではないから本当に大した給料は出ないけれど、それでもその報酬は大貫の絵の対価だ。「絵で食っていく」という状態に大貫は喜んでいる。
 そして。
 大貫は公園ではなく、大貫の自宅で生活するようになった。
 実は私もまだ大貫の自宅で生活している。
 つまり、実質、同棲生活である。

「これは一体どういう状況なのか」
 大貫のマンションでダイニングテーブルにつき、彼の作ったご飯をむしゃむしゃ食べていた私は独りごちた。
「浅野さん、なにか言った?」
 洗い物をしていた大貫が、水を出しっぱなしのまま振り向く。家事はすべて大貫の担当だ。これが意外と器用な男で、家事のスペックが高いのである。
「ううん、別に」
 私はふっくら炊けたツヤツヤなご飯を口にハフハフかきこんだ。
 同じ家で寝泊まりしているのだから、同棲。
 それは、そう。
 でも別に、付き合っているわけではない。
 それが非常に私の心の置き場所をわからなくさせる。
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