敏腕自衛官パイロットの揺るがぬ愛が強すぎる~偽装婚約したはずが、最愛妻になりました~
偽カップルの誕生
空を見上げた。
雲ひとつない紺碧色の空は太陽の独壇場。七月末の強烈な日差しに手をかざし、坂下彩羽は丸く大きな目を細めた。指の隙間から零れる光でさえ容赦なく彩羽に降り注ぐ。
遠くでジジジと鳴くセミの声もアスファルトの上で揺れる蜃気楼も暑さを助長するのに、彩羽が感じる不快指数はそれほど高くない。
ベビーブルーのワンピースの裾を揺らし、少しでも空に近づけるようつま先立ちになると、緩くアップにした少し癖のある髪がひと筋こめかみに垂れた。
「彩羽! いつまで空を見上げてるのー。中に入るよ」
かけられた声に振り返ると、高校時代からの友人である堀江ゆかりがホテルのエントランスを背に手招きをしている。ライムイエロー色のマーメイドラインのスカートがよく似合うスレンダーな彼女は、その場でぴょんぴょんと二度跳ねた。
「はーい」
歩道にヒールの音を響かせ、彼女のもとへ向かう。その間にもゆかりは手招きを止めず、彩羽を急かす。
「彩羽は油断すると空ばっかり眺めてるんだから」
やっと追いついた彩羽に、ゆかりは呆れ顔で腰に手をあてた。
「そう? だけど不思議だと思わない? どうして青空ってこんなに爽快なんだろう」
夏の暑さもまとわりつく湿気も忘れてしまうほどに。頭上いっぱいに広がる青い空を見られただけで得した気分になる。
(って感じるのは、もしかして私だけ?)
梅雨明け直後のうだるような気温では、共感を得るのはなかなか難しいかもしれない。
「えー? 色じゃない? 青って清涼感があるから。海だってそうでしょう? っていうか私にしてみれば、暑くてたまらないから少しくらい雲を浮かべてよって苦情を言いたいわ。青空はお呼びじゃない」
やはり理解してもらえなかった。
ゆかりが太陽に向かって眉根を寄せる。それはもう渋い表情だ。ふっくらした頬や唇がキュートな顔立ちなのに台無しである。
「それより早く行こうってば。遅くなっちゃう」
痺れを切らしたゆかりに腕を引っ張られ、彩羽のパンプスが不規則なリズムを鳴らす。久しぶりに高いヒールを履いたため、危うく躓きそうになった。
「やっぱり行かなくちゃダメ?」
「ここまで来て今さらそんなこと言わないの。腹を括りなさい、腹を」
雲ひとつない紺碧色の空は太陽の独壇場。七月末の強烈な日差しに手をかざし、坂下彩羽は丸く大きな目を細めた。指の隙間から零れる光でさえ容赦なく彩羽に降り注ぐ。
遠くでジジジと鳴くセミの声もアスファルトの上で揺れる蜃気楼も暑さを助長するのに、彩羽が感じる不快指数はそれほど高くない。
ベビーブルーのワンピースの裾を揺らし、少しでも空に近づけるようつま先立ちになると、緩くアップにした少し癖のある髪がひと筋こめかみに垂れた。
「彩羽! いつまで空を見上げてるのー。中に入るよ」
かけられた声に振り返ると、高校時代からの友人である堀江ゆかりがホテルのエントランスを背に手招きをしている。ライムイエロー色のマーメイドラインのスカートがよく似合うスレンダーな彼女は、その場でぴょんぴょんと二度跳ねた。
「はーい」
歩道にヒールの音を響かせ、彼女のもとへ向かう。その間にもゆかりは手招きを止めず、彩羽を急かす。
「彩羽は油断すると空ばっかり眺めてるんだから」
やっと追いついた彩羽に、ゆかりは呆れ顔で腰に手をあてた。
「そう? だけど不思議だと思わない? どうして青空ってこんなに爽快なんだろう」
夏の暑さもまとわりつく湿気も忘れてしまうほどに。頭上いっぱいに広がる青い空を見られただけで得した気分になる。
(って感じるのは、もしかして私だけ?)
梅雨明け直後のうだるような気温では、共感を得るのはなかなか難しいかもしれない。
「えー? 色じゃない? 青って清涼感があるから。海だってそうでしょう? っていうか私にしてみれば、暑くてたまらないから少しくらい雲を浮かべてよって苦情を言いたいわ。青空はお呼びじゃない」
やはり理解してもらえなかった。
ゆかりが太陽に向かって眉根を寄せる。それはもう渋い表情だ。ふっくらした頬や唇がキュートな顔立ちなのに台無しである。
「それより早く行こうってば。遅くなっちゃう」
痺れを切らしたゆかりに腕を引っ張られ、彩羽のパンプスが不規則なリズムを鳴らす。久しぶりに高いヒールを履いたため、危うく躓きそうになった。
「やっぱり行かなくちゃダメ?」
「ここまで来て今さらそんなこと言わないの。腹を括りなさい、腹を」
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