万能フライパンで王子の胃袋を掴んだ私、求婚を断って無双する!
 気が付くと、世界が真っ白だった。
 あれ? いつの間に雪なんて? 
 天白美愛(てしろ みあ)はきょろきょろと周囲を見回す。

 寒くもないし、手を伸ばしてもなにもない。雪だと思ったのは錯覚だとわかった。
 上下左右がただただ白くぼんやりと光っていて、壁も天井も床もなかった。
 どういうこと?
 疑問に思って記憶をたどる。

 自分は今日も会社で黒地(くろち)エリカに——先輩にいびられた。
 数歳上の彼女はよく毒を吐く。もちろん物理的な毒ではなくて、悪口のたぐいだ。
 見かねた美愛が注意をしたことがある。が、以降は恨まれて美愛に攻撃が集中した。
 気付いた上司が今日の昼間に注意をしてくれたようだが、まったくの無駄どころか、逆恨みが増したようだ。生意気だと毒づかれ、仕事を押し付けられた。

 残業で疲れ果てた美愛は腹を空かせて帰りの電車に乗り、スマホで転生ものの小説を読んだ。駅で降りて信号を待って……。それから?
 眉を寄せると、目の前がピカッと光って眩しさに手をかざす。
 光が収まったときには、ひとりの女性がさかさまに浮いていた。古代ギリシャ人のような衣装に長い銀髪、紫の瞳。花の冠。とうてい日本人ではないように見える。

「目が覚めたのね」
 女性の言葉に首をかしげる。
「これでは話しにくいかしら」
 女性はするすると向きを変えて、美愛と同じ向きになった。

「初めまして。私は女神のエレオノーラ。あなたに助けてもらった猫です」
「あ……」
 美愛は思い出した。
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