届けたい音、届かない想い~The sound I want to deliver, the feelings that cannot reach.~
音が部室の空気に溶けていいく。

その余韻は目に見えないけれど、なんか存在してる気がした。

私はそっとマウスピースを外す。

マウスピースを押し当てていた部分がピリッと唇に残っている。

遠くでクラリネットがスケールを練習していて、パーカッションがスティックをくるくると回して遊んでいる。

その隣で心華が、オーボエのキーを押したりしている。

譜面とにらめっこしながら、なにか考えているような顔をしていたけど、目が合うと、すぐに柔らかい表情になった。

「今、結来合わせてたでしょ。」

「え、ばれた?」

「うん、楽しくてつい、、」

表情を緩める心華を見て、なんだか照れくさくなった。

勝手に合わせてるのがばれて恥ずかしいような気分。

「なんか、最近花恋先生、みたいだよね。」

「、、え?」

「いや、なんとなくだけど、、、」

心華は言葉を濁したまま、オーボエを鳴らし始めた。

私は、心華の横顔をちらっと見る。

何を言いたかったんだろう。

先生ってどういう意味なんだろう。

先生見たいってうれしいけれど、もやもやが残って素直に喜べない。

花恋先生は別に楽器を吹いているわけではない。

でも、人のことをよく見ている。

どんな気持ちで吹いてるか見透かしているみたい。

「先生って、人と音のことよく見てるよね」

私はぽつりとつぶやいた。

心華はうんとだけ言って、譜面をめくった。

譜面をめくる音が、紙と空気のあいだで小さく鳴った。

心華は何も言わず、ただ次の練習に向けて準備をしている。  

その静けさが、なんだか心地よかった。

私は、ユーフォニアムのベルの内側を指でそっとなぞった。  

冷たい金属の感触が、指先に残る。  

さっきまで吹いていた音が、まだそこにいるような気がした。

先生みたいって言われたこと。  

うれしいけれど、なんとなく引っかかる。  

私は、誰かの音に気づけているだろうか。  

ただ吹いてるだけじゃなくて、ちゃんと聴けてるだろうか。

それなのになぜ心華は先生見たいって言ったんだろう。  

そんなことを考えていたら、心華がふいに言った。

「ねえ、結来」  

「ん?」  

「今度さ、先生に見てもらうとき、二人で合わせてみない?」  

「……え、私と?」  

「うん。なんか、トランペットと合わせてるの聞いてよかったなって」

私は少しだけ驚いて、それから笑った。  

心華の言葉が、さっきのもやもやを少しだけ溶かしてくれた気がした。

「……うん。やってみたいかも」
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