御影の王
来た。

私は振り向く事なくその視線を意識する。

明らかに敵意を帯びた強い視線。

私を凝視している。

その視線だけで私を射殺さんばかり。

これ程の露骨な殺意は、経験した事がない。

それがかえって、私に冷静さを与えた。

過剰な恐怖だと、逆に心を平静にさせるものなのだろうか。

ともかく、これ程の殺気を放つ相手とこの場では戦えない。

この場には何の関係もない人達が大勢いるのだ。

巻き込む訳にはいかない。

私は誘うように歩調を遅くして、視線の主を誘い込む。

通りを一つ外れ、人通りの少ない裏路地へ。

更に奥まった通りを進み、袋小路の中へと自ら踏み込む。

「…ここならよかろう」

刀の鞘を握り締め、私は振り向いた。

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