君を守る契約
帰りの機内で宗介さんは静かに窓の外を見つめていた。
幸也と会って、彼は本当の恋人のように振る舞ってくれた。彼にとっては都合のいい契約のはずなのに、まるで本物のようで勘違いしそうだった。
幸也にお正月は自分の家に来るよう声をかけてくれるなんて想像もしておらず驚いた。本当に来てしまってもいいのだろうかと幸也と別れてすぐに確認したが、「もちろんだ」と即答してくれた。なぜ彼はこんなにもよくしてくれるのだろう。

「幸也くんがくれたかまぼこ、楽しみだな」

ふいに外を見ていたはずの彼に声をかけられる。幸也なりに私の結婚相手に気を使ったのだろう。限りあるお金の中から買った笹かまぼこが入った紙袋を渡された。

「これ、少しだけどふたりで食べてください」

照れくさそうに手渡してきた幸也の顔が胸の奥に残っている。宗介さんは幸也の思いを受け取るように両手で受け取ると「ありがとう」と言って自然と頭を下げていた。

「そうですね。今日の夕飯に食べましょうか」

「日持ちするよな? 今日は遠くまで行って疲れただろう? これは明日いただくことにして今日は夕飯を食べて帰らないか?」

宗介さんがそう言うのなら私はそれに従うまで。

「はい」

「食べたいものはある?」

「宗介さんの好きなものでいいです」

「琴音は何が食べたいの?」

彼はなぜか私に聞いてくる。

「なんでもいいです」

「本当に? 激辛でもいい?」

え? 辛いのはちょっと……と思うが、彼が望むのならばと小さく頷く。するとクスッと笑う声が聞こえてきた。

「琴音はすぐに我慢するよな。自分の意見をもっと言っていいんだ。俺たちは対等なんだよ。それに俺の前ではもっとわがままになってもいいよ」

その言葉に私はふいをつかれた。彼に気を遣うのがあたり前だと思っていたのに、わがままになってもいいと言われ胸の奥がぎゅっと締め付けられる。その言葉は今まで誰にも言ってもらったことがない。私が頑張るのが当たり前だったこの数年間を彼に見透かされたような気持ちになった。
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