ループするメイドは破滅ルートを回避したい!はずが、なぜか宰相様の溺愛ルートに入ってしまいました!?
「三つ目に考えられるのが、権威の失墜だ」

 部屋の空気が、一瞬で張りつめる。
 まるで剣を向けるような鋭さを帯びた声に、アリアも思わず息を詰めた。

「偽造通貨の存在が広まれば、国民は貨幣そのものを疑うようになる。通貨の信用が揺らげば――王政もまた揺らぐ」

 そこに込められたのは王家の威信そのもの。その信用が傷つく。
 それを貶めようとする者がいる。

 信用を失ったその先の未来を、アリアはもう知っていた。

 過去に何度もこの目で見たことがあるからだ。


 あのとき、民衆は王太子殿下の暴政に怒り、信頼を手放した。
 王政は崩れ、街は混乱し、そして自分は――

(……処刑されたんだ)

 手のひらが冷たくなる。
 身体の奥から、凍りつくような恐怖がじわじわと這い上がってくる。

「……あの、四つ目はなんですか?」

「ん?」

「さっき、偽造通貨をばらまくメリットは四つあるって……」

 アリアはおそるおそる口を開いた。

 セドリックの口から語られた三つの可能性だけでも背筋が冷たくなるほどだったのに、もっと恐ろしい可能性が残されているのだろうか。

 アリアの問いかけに、セドリックは手にしていた書類を伏せて静かに首を振った。

「今は、やめておく」

 低く落ちたその声はどこまでも冷静だった。

「まだ憶測の域を出ない。ただの仮説に君を巻き込む理由はない」

 あくまでも理性的な判断。
 けれどその言葉の裏に、彼なりの配慮があることがアリアには分かってしまった。

 普段はどんなに重たい事実でも感情を交えずに告げる人が、今言葉を選びながら伏せたという事実。それだけで重さが伝わってくるようで。

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