この恋、史上最凶につき。
第十三話 夜道、ほどけない手
時雨くんの家を出た瞬間、夜風がひんやりと頬をなでた。
それでも私の右手はずっと温かい。……時雨くんが、離さないから。
「……寒くねぇ? ほら」
言うが早いか、彼は当然みたいに指を絡めてきた。
歩幅も合わせてくれてるのに、なんだろう。
いつもより歩くスピードが、やけに遅い。
「時雨くん、ゆっくりだね?」
「……急ぐ理由ねぇだろ。雪菜、すぐ帰っちまうし」
その声音が、ほんの少し拗ねてる。
胸の奥がきゅっとなる。
「また明日も会えるよ?」
「足りねぇよ。それじゃ」
ぽつりと落とされた声が甘くて、危なくて、嬉しくて、
私は返事ができなくなった。
夜道の街灯が二人の影を寄り添わせていく。
時雨くんの指の力は少しずつ強くなって、
まるで――手を離したら、私が消えてしまうと言わんばかりだった。
「雪菜ってさ……俺のこと、ちゃんと見てる?」
「え? 見てるよ。毎日」
「……他の奴に気ぃ取られんなよ」
歩きながら、耳元で囁かれた声が低くて、ひどく甘い。
「雪菜は……俺が守る。俺だけが」
家の角を曲がった時、見慣れた門が見えた。
伊達家の明かりはついていて、両親はまだ起きている。
「……着いちゃったね」
そう言っても、時雨くんは手を離さない。
むしろ腕がずるずる引き寄せられて、胸元に押し当てられる。
「……帰れねぇ」
小さく、低く、絞り出すように。
「そんな顔すんなよ。雪菜が帰りたくねぇみたいに見えるだろ」
「……時雨くんが離さないんだよ?」
「離したくねぇからだよ」
夜気の中で見つめ合うと、
彼の目がとんでもなく近くて、熱くて、真剣で――
「雪菜」
「……なに?」
「次の休み、デートな」
問答無用。決定事項みたいに言われて、胸が跳ねる。
「……デート?」
「ああ。ちゃんとしたやつ。
行き先は俺が決める。
雪菜は、俺に付き合うだけでいい」
そう言いながら、腕の力がさらに強くなる。
そして。
「それか――黒焔の連中にもちゃんと紹介し直す。
“伊達家の雪菜”じゃなくて、
“俺の、大事な人”として」
耳の奥がじんと熱くなるような台詞だった。
「雪菜、どっちがいい?」
囁く声が、喉の奥で転がるみたいに甘い。
「デートか。
黒焔の奴らの前でもっとお前を独占するか。
……どっちにされたい?」
両方とんでもなく恥ずかしくて、
でも、どっちも嬉しくて。
返事を迷っていると、時雨くんの親指が頬を撫でてきた。
「言えよ。
雪菜の望みなら、どっちでも叶えてやるから」
この声を聞いていると、
本当に、逆らえなくなる。