この恋、史上最凶につき。
第四話 家の前、逃げられない距離
手を繋いだまま学校を出ると、春の夕日が街を橙色に染めていた。
「雪菜、家どこ?」
「え、えっと……歩いて十五分くらい……」
「じゃあ歩きだな」
当然のように言う時雨くんに、周りの視線が集まる。
暴走族の総長と歩いてるなんて、そりゃ目立つ。
でも……
繋いだ手を離そうとすると、時雨くんがぎゅっと握り直す。
「離すな」
「ひ、人前だよ……?」
「見せつけとけばいいだろ。雪菜は俺の隣にいるって」
その自信に満ちた言い方に、胸が熱くなる。
歩いている間、無言なのに不思議と落ち着いた。
時雨くんの歩幅に合わせてくれる優しさも、
無意識のように手を包み込む温度も、全部怖いくらい心に刺さる。
「ここ……私の家」
家の前に着くと、時雨くんは立ち止まり、
私の手を離さないまま私を振り向かせた。
「疲れてないか?」
「だ、大丈夫……」
「ふーん。雪菜って、俺の前だと強がるよな」
言われた瞬間、胸がきゅっとなる。
こんな短時間でどれだけ見抜かれてるんだろう。
時雨くんは一歩、私に近づいた。
夕日の光のせいだけじゃなく、距離が近い。
顔が熱くなるほど近くて、呼吸がぶつかりそう。
「……時雨くん?」
「雪菜」
低い声が耳のすぐ横で落ちる。
「俺だけ見てればいい」
心臓が跳ねるのが、彼に聞こえてしまいそうだった。
「学校でも、家でも、どこにいても。雪菜の目に映る男は……俺だけでいい」
指先で頬に触れてくる。
その優しさと支配の混ざった触れ方に、身体が固まる。
「他のやつに笑うなよ。俺、我慢できねーから」
甘い声なのに、奥のほうに刃みたいな独占欲がある。
逃げられない——
でも、逃げたくない。
「……うん」
やっと絞り出した声に、
時雨くんはゆっくり微笑んだ。
危険で、でも胸がときめく笑顔。
「いい子」
その一言で、全身が熱くなる。
「また明日、迎えに行くから」
離したくなさそうに指を絡めたまま、
名残惜しそうに手をほどき、時雨くんは背を向けて歩き出した。
その背中を見つめながら、私は思った。
——織田時雨の「離さない」という言葉は
たぶん、本気だ。