この恋、史上最凶につき。

第五話 「雪菜は俺の未来だ」



 翌朝。
 カーテン越しに差し込む光で目を覚ますと、
 胸が昨日の出来事を思い出してどくっと跳ねた。

 (……時雨くん、来るって言ってたけど)

 まだ早い時間。
 まさか玄関前にいるなんて——

 そう思いながら制服に袖を通し、
 髪を整えて、そっと玄関の扉を開けた。

 その瞬間。

 「おはよう、雪菜」

 心臓が止まるかと思った。

 玄関の門柱にもたれて、片手をポケットに入れたまま、
 時雨くんがいた。

 朝日の逆光の中で、彼の姿が綺麗に見えて、
 夢かと思った。

 「と、時雨くん……早くない……?」

 「雪菜が出てくるまで待つの普通だろ」

 そんなの普通じゃない。
 でも、時雨くんの中では本気で“当然”なんだ。

 近づいてきた彼は、じっと私の顔を覗き込む。

 「寝起きの顔も可愛いな」

 「っ、朝からそういうの……やめ……!」

 「嫌か?」

 そう言って髪を指で梳かれると、
 胸の奥がぎゅっとなった。

 時雨くんはそんな私の反応に、小さく笑う。

 「雪菜の家……伊達家って、やっぱ立派だな」

 「……うん。古い家だけど」

 その瞬間、時雨くんの目が少し鋭くなった。

 「伊達政宗の血、だもんな。雪菜の家ってさ、なんか……守られてるって感じする」

 「……どういう意味?」

 時雨くんは一秒だけ迷ったような顔をしたあと、
 ふっと視線を落として言う。

 「伊達家は“雪菜を守る家”なんだろうけど……俺は、雪菜そのものを欲しいだけ」

 胸が息苦しくなるほど熱くなる。

 時雨くんは歩み寄り、両手で私の頬を包んだ。
 朝の冷たい空気の中、彼の手は暖かい。

 「雪菜」

 名前を呼ばれるだけで涙がにじみそうになるほど優しい声なのに、
 その奥底には強い独占の色があった。

 「俺さ……お前のことになると、ほんとに自分で自分が止められない」

 「……時雨くん」

 「歴史がどうとか、家がどうとか関係ねぇよ。伊達の姫だろうが関係ない」

 近い。
 息が触れる。

 「雪菜は——俺の未来だよ」

 その言葉を聞いた瞬間、
 世界が一瞬で静かになった。

 風も、鳥の声も、全部消えたみたいに。

 「だから離す気は一生ない。どこに行っても、何をしてても……雪菜は俺の隣だ」

 頬を包む手に力がこもる。
 でも痛くない。
 むしろ安心する。

 「……行こう。学校まで送る」

 時雨くんは私の手を取り、
 指を絡めてきた。

 その手の温度が、心の奥まで染み込んでいく。

 

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