【香る物語】香りの檻
この部の秘書として、みんなを陰ながら支えてきた。夜遅くまで頑張っている彼らに夜食を届けた夜もあった。あのときの笑顔を、私は今も覚えている。だから私も自分のことのように嬉しくて、心がほんわか温まる。

「お疲れさまでした、律己主任!」
「本当におめでとうございます!」

部員たちが次々と声を上げ、拍手が湧いた。

「みんなのおかげだ。ありがとう。そしてお疲れさま」

普段は寡黙なお兄ちゃんも、さすがに今日ばかりは微笑んでみせた。その表情に、研究室全体がふわりと明るくなる。

「……本当に、おめでとうございます」

私はその輪の外でぽつりとささやき、小さく頭を下げた。そのとき、お兄ちゃんが軽くこちらに目を向け、私たちの視線が重なり、心臓がトクンと跳ねた。けれどすぐに、彼の隣から蘭ちゃんの弾んだ声が響く。

「すごいね、律己。やっぱりあなたならやると思ってた!」

そう言ってお兄ちゃんに抱きついた。

すると、近くにいる研究員たちのひそひそ話を耳にしてしまう。

「キャァァァ、やっぱり律己主任と蘭さんて、絶対付き合ってるよね⁉︎」

「うんうん! 噂だけど、結婚間近って聞いたよ」

ーーえっ、結婚⁉︎

その瞬間、あの夜の光景が脳裏に蘇る。家の前で抱き合っていた二人の姿。一気に私の中に灯っていたお祝いの炎が、小さくなって消えていく。心がスーッと冷たくなり、ハサミでズタズタに切り刻まれる。

お祝いの輪に入れない私。ここでも蚊帳の外。『私』がゆっくり透けて消えていく感じがする。
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