断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

17

 王子であるロドルフを追い返す訳にもいかず、仕方なく父が中へと通した。

「リーゼはここにいなさい」

 父と兄に部屋から出るのを止められたが、どうしても気になりそっと部屋を抜け出した。

 応接間へ向かう途中、兄であるマティアスの怒号が聞こえてきたが、軽くあしらう様に笑うロドルフの声も聞こえてくる。

「どの面下げてここへ来たんですか!!」
「この私に大して随分な言い草だなマティアス・クンツェル」
「いくら殿下だろうと、大切な妹を傷付けた者は許せないんですよ」

 そんな言い合いをするマティアスとロドルフを後ろから立って眺めている護衛の騎士達の顔は、なんとも言えない微妙な顔をしていた。

 ロドルフの所業は承知しているが、一応は仕えている主だから守るのは当然。だが、騎士仲間であるマティアスの気持ちも分かるので下手に口を挟めない。

(まさに地獄絵図ね…)

 そんな中、口を開いたのは当主である父。

「二人とも落ち着きなさい」

 低く落ち着いた透き通る声で言うが、その表情は周りが凍りつく程のいい笑顔。

 流石は文官。
 常日頃、苦情や文句を言うの者を言い負かせているだけの事はある。

「それで?殿下はどういったご要件でしょうか?()()()来られる理由は何一つありませんよね?」
「…………」

 笑顔の父に睨まれたロドルフは青い顔で俯いている。

 その様子に、今この場にいる全員が思った──……

「こっえぇぇぇぇ」
「──!?」

 リーゼの背後から声がかかり、勢いよく振り返るといつの間にかシンが一緒になって覗き込んでいた。

「お嬢さんの親父さん、見かけによらずおっかないねぇ」
「あ、貴方いつから──!?」
「しっ!!気付かれちゃうよ」

 指で口を押えられ、慌てて口を噤んだ。

「リーゼに─…」
「リーゼ?婚約者でもない令嬢を敬称なしとは…育ちが見えますな」

 父に苦言を呈され、グッと言葉に詰まっている。

 同じ空間にいる者からすれば、居た堪れない気持ちなんだろうが、遠目から覗いているこちからすれば『いい気味』としか思えない。

「り、リーゼ嬢を裏切ってしまったことは申し訳ないと思ってる…」
「申し訳ないからと言って、贈り物で誤魔化そうとしているんですか?」
「そんなんでは無い!!私は、本当に悪いと思って!!」
「それが要らぬお世話だと言っているんです」

 鋭い言葉で言い切られ、ロドルフは黙るしかなかった。

「娘はすでにウィルフレッド団長との婚約が成立しています。貴方とは違い誠実な方です。きっとリーゼを幸せにしてくれるでしょう。一方で貴方はどうです?」

 ロドルフは分かりやすく動揺し始めた。

「公の場で婚約破棄を宣言し、望み通りに愛する者と婚約できたじゃありませんか。例え出来の悪い令嬢だとしても、娘を捨ててまで一緒になりたかった者なのでしょう?」

 淡々と話しているが、娘を傷付けられた事に相当怒っている事がよく分かる。

「…娘は貴方の飾りでも道具でもありません。今更、会いに来られても迷惑なだけです。それに、こんな所に来ている場合では無いのは貴方も承知しているはず」

 ロドルフはワナワナと握っている拳が震えている。

「少しは周りの事に目を向けなさい。今貴方がする事はなんなのか、それが分からないのなら王子としては失格です」

 はっきりと言い切ると、その場がシーンと静まりかえった。

 少しの静粛の後、勢い良くロドルフが席を立ち振り返りもせず、足早に部屋を出て行った。

 完全に父の独壇場で終了した。

 リーゼは気付かれる前に部屋へと戻り、盛大な溜息と共にベッドに体を埋めた。

「いやぁ、見事な言い負かし方だったね」
「あんな怒ってるお父様見たのは久しぶりだわ」

 本当、自分の為に怒ってくれる者がいるだけで救われる。それが自身の家族となると、尚更嬉しく思える。

「君達兄妹は完全に父親似だね」
「どう言う意味?」

 納得するように言われるが、褒めているのか貶しているのかよく分からない。

「しかしまあ、相手が相手だからねぇ。あれぐらいじゃへこたれないでしょ」
「あれぐらいって…結構、抉られたと思うけど?」

 娘の私でもあれだけ言われたら、しばらく再起不能になるレベルだ。

「どうかなぁ?僕が見る限り、言い負かされて逃げ帰ったと言うより、苛立ちの限界が来て帰った風に見えたけど」

 そう言われればそう見えないことも無い。
 プライドが高い分、ボロくそ言われた挙句に逃げ帰ったと思われたくない節もあるが…

「主が留守の今の内に丸め込もうとしたんだろうけど、思わぬ伏兵がいたって訳だね」

 うちの父がこういう人だと言うことは、城内では有名だ。丸腰でやってくるあたり、父の事も知らなかったんだろう。周りの事に目を向けていない証拠だ。

(…大丈夫か、この国…?)

 本気で心配になってきた。

「ああ、そう言えば()()預かってるよ」

 シンの手には一枚の封筒が握られていた。

 すぐにウィルフレッドからのものだと分かり、奪い取るようにして取ると、ゆっくりと封を開けた。

 中には一枚の便箋と共に、紫色の綺麗な押花が添えられていた。
 便箋には怪我もなく過ごしている事と、思っていたより手こずっている旨が書かれていた。

 それと一緒に、ロドルフに気をつけろとも…

(既に処理済みなんだが?)

 まさか、連絡が来るよりも先にやって来ているとはウィルフレッドも思っていないだろう。

 苦笑いを浮かべつつ読み進め、最後に

『リーゼ、愛してる。心から─』

 そう綴られていた。

 初めて手紙を読んで泣きそうになった。

 誤魔化すように便箋を強く握り顔を埋めるが、シンは黙って窓の外を見ている。きっと、シンなりの気遣いなんだろう。
 リーゼは気持ちを落ち着かせるように深呼吸してから、顔を上げた。

「届けてくれてありがとう」
「どういたしまして」

 互いに微笑み合った。
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