断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

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「…………もう一度言ってくれる?」

 リーゼは自身の部屋で、険しい顔をシンに向けながら問いかけた。

「だ・か・ら、殿下の現婚約者が主を追っかけて戦地に乗り込んだらしいよ?って言ったの」
「あんのアバズレ!!!!!!」

 バンッ!!と勢いよく机を叩きつけながら立ち上がった。
 シンはタイミングよくお茶の入ったカップを器用に持ち上げながら笑い転げている。

「あははははは!!思った通りの反応だね」
「笑い事じゃないわよ!!」

 ウィルフレッドに猛烈アプローチ掛けていることは知っていたが、相手にされないからってここまでする!?

「名目は騎士達のお世話らしいけど、十中八九目的は主一人だね」
「…………」
「それに、よく言うじゃない?戦地では危険と紙一重で本能的に子孫を残そうとするから、気持ちが昂りがちだって…あっちからすれば、既成事実ワンチャンいけるかも。的なノリじゃないの?」

 不安になるような事を淡々と述べるシンを睨みつけた。

 ウィルフレッドに限ってそんな過ちはないと信じたいが、ないと言い切れない所がまだ信用しきれていない証拠だ。

 リーゼは頭を抱えながら悩んだ。

 自分も行くべきか。だが、行ったところで邪魔になる。邪魔だと思われるぐらいなら、ここに残った方が…だけど、それだとあの女の毒牙にやられる可能性も…

 様々な感情が巡り、葛藤しながらも答えが出ない。

「ねぇねぇ、お嬢さんさ。大事な事忘れてない?」
「大事な事?」

 首を傾げながら聞き返すが、まったく検討が付かない。

「ヤダなぁ。僕がいるじゃない」
「……………」
「あ、ヤダ。何その顔」

 自慢気に言われたが、シンがいた所で不安は解消されない。リーゼは不満に満ちた顔で睨みつけた。

「その顔は訳が分からないって顔だね」
「…………」
「あはは、正直だね」

 シンは茶化すように笑っていたが、スンッと真剣な表情になり、リーゼに向き合った。

「いい?これから僕は主の元に向かう。女狐を強制的に連れ戻す為にね」

 細目を薄らと開けて口角を上げた。
 その笑みはゾッとするほど、猟奇的な印象だった。

「次期王太子妃を傷付けたなんて事になったら、この国だって黙ってはいられないだろ?流石に事が事なんでね。早急に連れ戻せってお達しがあったんだよ」

 なるほどね。国王様も遂に、重い腰をあげたって訳か…随分と遅いこと。

「うちの大将もいい加減堪忍袋の緒が切れる寸前でね。僕からすれば国なんかより、そっちの方が厄介な訳」

 困り顔で溜息混じりに言うところを見ると、シンの本音はこちらの方なんだろう。

「そんな訳で、しばらく留守にするけど…僕が帰るまで勝手な行動はしない事。何かあったらすぐに騎士であるお兄ちゃんを頼る事。分かった?」
「子供じゃないんだから…」
()()()()()()から言ってるの!!」

 そんな物凄い圧で言われたら「はい」としか言えない。

 まあ、この屋敷には父も兄もいる。シンがいなくても大丈夫だろう。そう思って、笑顔でシンを送り出した。


 ❊❊❊


「ウィルフレッド様、お茶が入りましたわ」
「……そこに置いておいてくれ」

 お茶を手にしたアリアナが、身体を密着させるようにウィルフレッドに寄り添って来た。

 胸元を大胆に開けた装いで、嫌でも胸元が目に入ってしまう。その視線に気が付いたアリアナは照れる様な素振りを見せながらも、頬を染めて微笑んでいる。

 アリアナがここに来たのは二日前の事。

 前もってシンが情報をこちらに寄こしてくれていたので慌てることはなかったが、戦地へ婚約者を寄こすなどロドルフの奴は何を考えている。

 ウィルフレッドは書類を目にしながら苛立ちを必死に抑え込む。だが、そんなことはアリアナには関係がない。

「わたくしにお手伝いできる事はありませんか?…例えば、夜のお相手とか…」

 大きな背中を撫でるようにしながら、豊満な胸をこれ見よがしに押し付け問いかけてくる。この言葉を聞いたウィルフレッドは呆れるように溜息を吐いた。

「それは、ロドルフの婚約者という立場を分かっての言葉か?」

 背中に張り付いていたアリアナを引き離すと、鋭い眼光で睨みつけた。その眼差しに一瞬怯んだが、何が何でもウィルフレッドをモノにしたいアリアナは必死に食らいつく。

「当然ですわ。次期王太子妃として、国を護る騎士達を労うのも役目だと思っております」

 胸を張って言い張るアリアナを黙って睨みつけた。

「こんな戦場ではお相手できる者がおりませんでしょ?この身体で溜まった熱を放出してください。…ああ、ご安心ください。リーゼ様には黙っておきますわ。ですから──」

 熱を帯びた目でウィルフレッドの胸に寄り添おうとした瞬間、思いっきり弾かれた。

 アリアナは「キャッ」と小さな悲鳴を上げて、その場に倒れ込んだ。
 すぐに顔を上げて「何をするんです!!」と文句を言おうとしたが、ウィルフレッドの顔を見てヒュッと息を飲んだ。

「黙って聞いていれば…いい加減にしろよ。身体を使って奉仕だ?はっ、次期王太子妃より娼婦の方が性に合ってるんじゃないか?」
「ーなッ!!」
「どこでそんな教育を受けてきたんだ?まあ、妃教育をまともに受けていれば、こんな場所に来ることも他の男に媚びを売る事もしないだろうがな」
「…………」

 アリアナはギリッと唇を噛みしめ、ウィルフレッドを睨みつけた。

「先に言っておくが、俺はロドルフとは違うからな。どんなに媚びを売って来ようと、お前に靡くことはない。それに、リーゼの方が何十倍もいい女だ。そんな上等な女がいるのに、下等な者に手を出す奴などいないだろ」
「う、ウィルフレッド様はあの女に騙されているんです!!あんな女よりわたくしの方がウィルフレッド様を悦ばせてさしあげれます!!」

「だから、一度だけでも…」と服をはだけながら言うと、今までにないない程の冷たい視線で睨まれた。

「はっきり言わないと駄目か?俺はリーゼにしか欲情しない。例え、絶世の美女だと言われる女が来ても同じだ。その点、お前は誰にでも尻尾を振っているからな。女と言うより雌犬だと認識しているが?」

「フッ」と嘲笑うように言えば、アリアナは悔しさか恥ずかしさかは分からない様な表情でウィルフレッドを一睨みすると、足早にその場を駆けて出て行った。

 ようやく静かになったところで、椅子に深く腰掛け天を仰ぎ、愛しい人の顔を思い出していた。
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