魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
16.助けてって言ってるのに!
ついでに、弾までごっそりと拝借したジャックはご機嫌な足取りで私たちを追う。
そのブルーサファイアの瞳は、剣呑な色を帯び、白い頬は上機嫌に紅潮していた。

「ミリタリー&ポリスだ。
やっぱり日本のヤクザは違うねー。
粗悪な中国製トカレフなんか、やってられないもん」

と、手元の銃を見つめながら瞳を輝かせている。
もちろん、拳銃に疎いフツーの女子高生である私に、それがS&W社が製造したM10というリボルバーだなんて分かるはずもない。

「なんで丸腰で入ったの?」

私は足を進めながら、ジャックに問う。
ちらり、と私に向けた瞳はもう、気まぐれな猫のそれではなく、虎やライオンを思わせるような凶暴な色を秘めていて、私は思わず生唾を飲む。

「だって武器を手に入れる暇がなかったんだもん。
どうせ、クリスマスイブまでは死なないって神様も保証してくれてたし。
もっとも、あんな下手な銃。避けるのは簡単だけどさ。
でも、弾が当たっても死なないほうがインパクトは強いよね」

ジャックは金髪をかきあげてにこりと笑って見せた。
王子様が狩にでも出向くような気軽な様子で拳銃を弄んでいる。

「銃、使い慣れてるの?」

恐る恐る聞いてみた。

「アメリカ暮らしが長かったから。
Smith & Wessonは、特にお気に入りだね」

と。
今しがた手に入れたばかりの回転式拳銃を自慢げに私に見せる。

人の命を簡単に奪うその道具は、想像以上にコンパクトで、私は眩暈を覚えた。

テレビや映画で見かける作り物ではない。
間違いない本物が、今、私の目と鼻の先で鈍い光を放っているのだ。

これで全身に鳥肌が立たない日本の女子高生がいたら、お目にかかりたいものだ。
私は、思わず握っている手に力を込める。

「ユリアが使うわけじゃない。
気にすることはない」

怯えている私に気を遣ってくれるのか、頭上からはそんな低い声が場違いなほど優しく響いてきた。




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