魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
ふらつきながらも、なんとか。
コツを覚えた私は、リフトがつくとすぐに、すぅーっと滑り出すことが出来た。

キョウが傍に滑ってきて後ろから腕を取る。

「俺のハニーは成長が早いね」

なんて、耳に届く低い声は優しい微笑みを携えていて心の中が暖かくなる。

靴を板につけるのだって、なんなく出来た。
キョウがゴーグルをつける姿に、思わずぼーっと見惚れてしまう。

キョウが少し遠くの木を指した。

「あそこまで、行ってみる?」

うん、と私は頷く。

一歩先に滑り出したキョウの、雪の斜面を颯爽と滑り降りる様子は目が離せなくなるほどかっこよかった。

周りには他にも滑っている人が一杯居るんだけど。

私の欲目かもしれないけど、キョウは別格に見えた。

風を切って、身体を倒し膝を使いながら、華麗としか表現できないような仕草で目標地点まであっという間に到達してしまう。


私は……どのラインで行こうかな。

私を見上げて手を振っている彼の姿を確認しながら、頭の中でシュミレーションを始めてみる。

とにかく、キョウの角度ではスピードが出すぎて駄目だからー。

あっちに行って~、こっちに行って~。

うーん、思っているように滑れるかしら?

仕方が無い!無理なら転んで、そこから後は木の葉で降りていけばいいよね。初心者なんだから、かっこよさなんて気にしちゃ駄目駄目!


そのときの私の頭の中は、スノーボードで一杯だった。

だから。

私を狙っている不穏な空気になど、気づく由もなかったのだ。
< 188 / 390 >

この作品をシェア

pagetop