魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
「事実です」

消え入りそうに呟いたその声が、あの形の良い耳に届いたかどうか私には分からない。
その人も特に私の返事を待っていたわけではないようだ。
既にその瞳は違うほうを見ていた。

「だから、こうやって謝ってるじゃないか。
色々と期限や約束事があってこの世界は成り立ってるの。
いくら神様だからってそれを全てないがしろに出来るわけないだろう?
私がそれを率先して始めたら、もはや世界の崩壊の始まりじゃないか。
世界があってこその神様なんだから、そんなつまらないことに加担するわけにはいかないのさ。分かるだろう?
魔界があっての魔王っていうのと同じことだよ。
ああ、なんだっけ?
そうそう、リリーの頭痛ね。
仕方が無いじゃん。後10日で待ちに待ったクリスマスイブじゃないか。それまで何とか耐えてもらうしかないんじゃない?
思い出させる方法?
あるわけないだろう。
そんなに世界は便利に出来てないんだって。

あ、一つだけある。
あの黒猫にかけた魔法を解いてしまえばいい。

簡単だろう?お前は悪魔なんだからな」

長々と、私にはまるで意味の分からない会話が一方的に続いている。
時折間が空くのは、一人芝居の練習なのか。

あるいは。
本当に残念だけど私の目には映らない何かと会話を交わしているのかも、しれなかった。

まぁ、どちらにしても奇異であることに変わりはないので確認なんてしないけれど。


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