魔王様!まさかアイツは吸血鬼?【恋人は魔王様‐X'mas Ver.‐】
30.魔王or社長?
「ユリア、おいで」

差し出された手を掴んでしまうのは、もはや条件反射。
パチリ、と指が鳴って何を聞くまでも無くさぁと風が吹く。

直後、連れて行かれたのは弓下ビルの目の前だった。

綾香が拉致監禁された、あのビルだ。

過去見なんて出来ない私の瞼に、あの日、得意げな顔で拳銃を持って目の前を歩いていた、剣呑な瞳を携えたジャックの姿が浮かぶ。
薄汚れたビルに、不釣合いなほどの貴族っぽい振る舞いをしながら。
それと相反するかのように楽しそうに人を射殺して行った(銃声しか聞いてないけど)、ジャック。

だけど、場所も佇まいも確かにあのビルのはずなのに。
今はまるで新築かのように輝いていて、薄汚れた様子は無い。

「折角なんで、改装したんだ。
ビルって本当、メンテナンス次第でなんとでもなるよね」

その口調は、プラモデルを仕上げた子供のように得意げで私の頬も思わず緩む。

「……でも、いまさらこのビルに何の用?
もう、レイプ現場なんて見たくなくってよ」

忌まわしい記憶を胸に、つい口が滑る。

「もちろん、そんなものはもうない」

低い声で吐き捨てるように言ってから、雰囲気を改めてキョウが舞台の開幕を告げる司会者宜しく丁寧にお辞儀した。

「いらっしゃいませ、ユリア様」

……な、何の冗談?
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