「庭の千草」狂詩曲
「神経までは傷めていないらしいから。病院も完全看護で、母は安心したようで」

「そう。周桜くんは大丈夫かい?」

「父が事故で怪我をしたと聞いた時は肝を冷やしたけれど。1日も早く怪我を治して復帰してほしいと」

理久の目に、マスターと話す詩月の後ろ姿は小さく見えた。

宗月の怪我よりも大きなものを抱えて、平然と何もない風を装っている様子が、痛々しく思えた。

詩月が窓際の席に戻ろうとし、立ち上がると扉のベルが鳴った。

涼やかな音色は風鈴の音だ。

風鈴の音は学生たちの演奏の邪魔をしないよう、控えめに鳴る。

マスターの心配りだ。

詩月は立ち上がりながら、扉に目を向けた。

安坂貢が先に店内に入り、その後ろから緒方郁子が店内を見回していた。

「ーー緒方」

緒方郁子の黒髪は2年前には肩までだっが、胸まで伸びていた。

郁子は店の入り口で立ち止まった。
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