「庭の千草」狂詩曲
ショパンは演奏しないーーそう決めたのに。

詩月は店内の中央にでんと置かれたグランドピアノを見つめた。

「周桜、郁は何を言っても引き下がらないぞ」

詩月は貢の言葉に、長いため息をついた。

「君はーー頑固で諦めが悪いし、自分のペースに巻き込むのが上手いな」

「ええ。譲らないわよ」

郁子が勝ち誇った笑顔で言った。

「君の頼みでなければ断固拒否なんだが」

詩月はため息混じりに呟いて、ゆっくりと立ち上がった。

「ショパンは久しく弾いていない」

不機嫌そうにポツリと言った。

詩月は1歩1歩、確かめながら、ゆっくり歩くと中央のピアノの前に立った。

ポンと人差し指で最初の音を鳴らし、腰を下ろした。

鍵盤を端から端まで、一気に鳴らすと合図もなしに、「雨だれ」を弾き始めた。

郁子も同時に演奏を始める。

詩月の音と郁子の音が重なる。
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