嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

番外編《小話》『ボクの名前はアルフレート!』

「ヴァルト様、こんな時間にどうなさったのですか?」
「少し手が空いた」

 大きなクマの縫いぐるみ二体に挟まれて座っていたリーゼロッテは、赤いリボンのアルフレートを腕に引き寄せ、ジークヴァルトが座るスペースを空けた。
 にもかかわらず、ジークヴァルトはリーゼロッテを抱えあげ、自身の膝に乗せてどっかりと座り込んだ。反動で隣に置かれていた黄色いリボンのアルフレートジュニアが、ぽてりとジークヴァルトに寄りかかる。

 ジークヴァルトの膝にリーゼロッテが乗り、リーゼロッテの膝の上にはアルフレートが乗っている。その横でアルフレートジュニアが、まるで独りにしないでと寂しがっているかのようだ。

「もう、ヴァルト様、せっかくお席を作りましたのに」
「別に不都合はないだろう?」

 言いながら茶菓子のクッキーをあーんと差し出される。素直にそれを口にして、リーゼロッテはもくもくと有難(ありがた)く頬張った。

「今日は口真似(くちまね)はしないのか?」
「口真似? 何のですか?」
「今、抱えているそれのだ」

 先日、盗み見られていた醜態(しゅうたい)を思い出し、リーゼロッテの頬が瞬時に染まる。ひとの黒歴史を蒸し返すなど、なんとデリカシーのない男だろうか。
 悔しいのでここは開き直るしかない。唇を尖らせて、リーゼロッテはぷくと頬を膨らませた。

「口真似ではありません。あれは腹話術と言うのですわ」
「腹話術?」
「ええ、唇を動かさずに声を出すことで、あたかも人形がしゃべっているように見せる職人技です」
「あの時、お前の唇は動いていたが?」
「で、ですから職人技なのですわ。技を極めた者は、まるで人形と会話をしているように見えるんですのよ」

 良く分からないと言ったように、ジークヴァルトの眉間にしわが寄った。

「いいですわ。もう一度わたくしがやって見せます」

 暇を持て余しすぎて、実はこっそり練習を続けていたリーゼロッテだ。今こそ、その成果を見せる時だと、ジークヴァルトの膝を無理やりに降りる。代わりにアルフレートジュニアをジークヴァルトに抱えさせ、自分は隣に腰かけた。

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