嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「よろしいですか? よく見ていてくださいませね?」

 演技に入る女優のように、ふっと息を吐き短く精神統一をする。次の瞬間にっこりと笑みを作って、リーゼロッテは膝に乗せたアルフレートと見つめ合った。

『ボクの名前はアルフレート! やぁ、リーゼロッテ、気分はどう?』
「とってもいい気分よ。あなたはどう?」
『ボクもいい気分だよ!』

 甲高(かんだか)い声と普段のリーゼロッテの声が、交互に口から発せられる。アルフレートをそれらしく動かしつつ、自分の芝居も忘れない。唇は多少動いてしまっているものの、我ながらいい感じでアルフレートの声が出せているのではないだろうか。

『ねぇ、リーゼロッテ。これは何?』
「これはペンね」
『あれは?』
「パイナップルよ」
「それを一緒にするとどうなるの?」
『ペンとパイナップルね』
「ペンパイナ……って、〇コ太郎か~い!」
「ぴ、こた、ろ……?」

 ぼそっと入った突っ込みに、リーゼロッテははっと我に返った。調子に乗りすぎて、脳内にとどめておくべき情報がうっかり駄々漏れになってしまった。
 こほんとひとつ咳払いをしてから、淑女然とした態度で居住まいを正す。何事もなかったかのように、凛とした表情でジークヴァルトを見やった。

「と、こんな感じであたかもふたりで会話をしているように見せるイリュージョン的な本格エンターテインメントですわ」
「だがやはりお前の唇は動いていたぞ? しかも途中で口調が入れ替わっていた」

 唇をアヒルのようにつままれる。どや顔で押し切ろうとしたところを、真正面からぶった切られてしまった。
 ぐっと喉をつまらせて、リーゼロッテは途端に涙目になった。しかしここで認めてしまったら、自分の負けが決定だ。ジークヴァルトの手をアルフレートの腕で払いのけ、何とか反撃を試みる。

『だったらヴァルト様もやってみてよ! 案外難しいんだから』
「そうですわ、ジークヴァルト様もやってみてくださいませ!」

 こうなったらジークヴァルトも巻き込んでやる。やけくそになったリーゼロッテは、アルフレートと共に一気に畳みかけた。
 眉根を寄せたジークヴァルトが、何か言おうと口を開きかける。だが唇を動かしてはいけないことを思い出したのか、アルフレートジュニアを抱えたまま口を引き結んだ。

 じぃっとリーゼロッテが見つめる中、しばしの時間、部屋に沈黙が訪れる。

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