嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 未婚の彼女に手を出したのだ。ルチアの名誉を守るためにも、責任を取るのは貴族として当然の義務だろう。
 しかしカイは大げさに驚いて見せた。肩を竦め、小馬鹿にしたような嗤いを向けてくる。

「結婚? このわたしがルチア嬢と? はは、面白い冗談ですね。ご希望に沿えずに申し訳ありませんが、わたしにそんな気はさらさらありませんよ」
「そんな、それではあまりにも不実(ふじつ)すぎますわ!」
「不実も何も彼女とは遊びですよ。ルチア嬢も承知の上でしょう」

 心底可笑(おか)しそうにカイは再び嗤った。かっとなり頭が真っ白になった状態で、知らずリーゼロッテは片手を振り上げる。()けようともしないカイの頬がはたかれる寸前で、ジークヴァルトに手首を掴まれた。

「その辺にしておけ」
「ヴァルト様……」

 自ら犯した衝動的な行動に、今さらのように動揺が走った。怒りなのか後悔なのか。震える指をジークヴァルトにやさしく包まれて、リーゼロッテは余計に震えが止められなくなった。

「ははは、惜しいことをしました。慈悲深いリーゼロッテ様に、平手打ちをされた初めての男になれるところだったのに」

 そんな軽口にジークヴァルトが睨みを利かせてくる。それを見たカイは「ああ」と得心したように頷いた。

「もうすでにジークヴァルト様がその座を勝ち取っておられるのかもですね。はは、これ以上戯言(たわごと)(つつし)みます」

 益々不穏な空気を感じたカイは、すっと真面目な騎士の顔になった。

「職務中ですのでわたしはこれで」
「カイ、行くのならその口を何とかしてからにしろ」
「おっと、これは失礼を」

 唇についたルチアの(べに)を、カイは無造作に指の腹で(ぬぐ)い取った。

「ではリーゼロッテ様、今度こそ御前失礼させていただきます」

 恭しく腰を折ると、カイは警護に戻っていった。わななく唇のまま、その背を見送るしかないリーゼロッテだった。






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