嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
      ◇
 夜会の会場を出て、王城の客間へと向かう。その途中、休憩用の一室からいきなり誰かが飛び出してきた。

「ルチア様……!?」

 ぶつかりそうになった令嬢は泣き腫らした目をしたルチアだった。色鮮やかな口紅が、唇からはみ出した様子にはっとなる。
 目が合ったにもかかわらず、唇を噛みしめルチアはそのまま走り去った。とっさに追おうとするも、ジークヴァルトにぐいと引き戻される。

「ヴァルト様……!」
「大丈夫だ。彼女に任せれば問題ない」

 ジークヴァルトの視線の先で、ベッティがルチアを追っていく後ろ姿が見えた。それを確かめたリーゼロッテは、不安に思いつつもジークヴァルトの腕に再びおとなしく収まった。
 ふいにジークヴァルトが振り返る。それにつられるように、リーゼロッテも顔をそちらへと向けた。ルチアが飛び出してきたのと同じ部屋から、ゆっくりとカイが現れる。
 彼らしからぬ高揚した様子に、一抹の違和感を覚えた。少し着乱れた騎士服を軽く整えながら、カイはこちらに近づいてくる。

「これはジークヴァルト様。もうお戻りですか?」

 張り付けた笑顔のカイを見て、リーゼロッテははっと息を飲んだ。その口元が異様に赤く染まっている。そう、それはまるで、色鮮やかな(べに)を塗り広げたかのように。

(ように、じゃない。あれはルチア様の――)

 どう見てもあの色はルチアがつけていた口紅だ。見間違うはずもない。彼女の赤毛に良く似合うと、先ほどそう思ったばかりだ。
 涙をにじませながら走り去ったルチアが頭をよぎり、ふたりの間で何が起きたのかを、正確にリーゼロッテは察知した。

「カイ様は……ルチア様をどうなさるおつもりなのですか?」
「どう、とは?」

 不思議そうに問い返された。遊び慣れた彼だと知ってはいるが、誰かを泣かせるような人間ではないはずだ。信じたい気持ちと信じられない気持ちが半々で、リーゼロッテの中をせめぎ合う。
 ルチアのためにも有耶無耶にしていい話ではなかった。カイの真意を確かめるため、リーゼロッテは意を決してその口を開いた。

「きちんと責任を取る気があるかということですわ。ルチア様とはもちろん結婚なさるおつもりなのでしょう?」

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