嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第22話 星に堕とす者

 定期的に訪れている後宮で、ツェツィーリアはピッパのいる部屋に通された。

「ピッパ王妹(おうまい)殿下、お呼びにより参上いたしました」
「遅いわツェツィーリア、やっと来たの? それにピッパでいいと言ったでしょう?」

 礼を取ったツェツィーリアには目もくれず、ピッパは小皿で水浴びをする黒ツグミに夢中になっている。

 ピッパは気まぐれで、日によって言う事がころころ変わる。この前も「ピッパ様」というのを注意され、王妹殿下呼びに戻したところだった。

(どうにもピッパ様は苦手だわ)

 普段わがまま放題のツェツィーリアも、さすがに王族相手には(わきま)えるだけの分別は持っている。それに最近はルカの婚約者として、どこに出ても恥ずかしくない淑女になろうと決めていた。

 特に話題も見つからず、黙ったままピッパの赤毛を見やる。自分の黒髪と違って、燃えるように鮮やかな色だ。

「なに? わたくしをじろじろ見たりして」
「いえ、見知った令嬢にピッパ様とよく似た者がいるものですから……」
「わたくしに?」
「はい、ピッパ様と同じ赤毛で、顔立ちもなんとなく似ているのですわ」
「ふうん?」

 リーゼロッテのお茶会で、時々顔を合わせる令嬢がいる。ルチアとか言っただろうか。いつも物憂げに口を閉ざしている、ちょっと陰気そうな令嬢だ。

「今度連れて来なさい」
「え、ですが……」
「わたくしが連れて来いと言ってるのよ。どうしてすぐにはいと言えないの?」

 機嫌が下降していく様子に、ツェツィーリアは唇を噛みしめ(こうべ)を垂れた。

「ピッパ様の仰せのままに」

 癇癪(かんしゃく)を起されると手が付けられなくなって面倒だ。
 これまで自分が周りにしてきたことではあるが、その迷惑っぷりを今度はツェツィーリア自身が学習させられている気分だった。

(いいの。わたくしは変わるわ)

 自分のために。そして、誰でもないルカのために。
 それは決して本人には言えない言葉だけれど。

 他人(ひと)を見て自分を磨く。
 そんな(したた)かさを身に着けつつあるツェツィーリアだった。

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