嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
      ◇
「何してるのよ、早く乗りなさい」

 ツェツィーリアに促され、戸惑ったままルチアは馬車に乗り込んだ。

「いい? 今日あなたはわたくしの侍女として王城に行くの。分かったわね?」
「は、はい」

 それは分かったが、なぜそういうことになったのかがまるで分からない。
 確かにルチアは準女官の資格を持っているので、王城で貴族の身の回りの世話をすること自体は可能だが。

(なんでわたしが選ばれたんだろう……)

 初めはベッティも連れて行こうとしたのだが、ルチアだけでいいと突っぱねられてしまった。

 リーゼロッテ関連でツェツィーリアとは何度か顔を合わせている。しかし相手は公爵令嬢だ。年が近いわけでもないし、今まで会話すらろくにしたこともなかった。
 連絡が来たのもいきなりのことで、王都のタウンハウスからブルーメ子爵領に戻ろうとしていた矢先のことだ。

 ――これでもう、カイと会うことはないのかもしれない。

 踏ん切りをつけなくてはいけない頃合いなのだろう。少しずつそんなふうに思いだしていた。なのに出発が先のばされて、ルチアの心は再び大きく揺れ動いた。

 もしも王城で、カイとばったり顔を合わせたりしたら。そこまで思って自嘲の笑いが漏れて出た。

(そんな都合のいいことあるわけない)

 カイの言葉は嘘ばかりだ。ルチアの期待通りになったことなど、これっぽっちもありはしなかった。

(もう忘れよう……もう、忘れなくちゃ)

 何度そう言い聞かせても、気づけばカイのことばかりを考える自分がいた。

 ――ルチアもいろんな奴と試してみるといいよ

 あのときの言葉が、どうしても頭を離れない。
 体の熱とは裏腹に、心の奥が一瞬で凍りついた。その場所に縫いつけられたかのように、ルチアの想いはどこにも動けないでいる。

 それでも窓の鍵を掛けることはできなかった。
 揺らされることのない閉ざされたカーテン。来て欲しいような、来て欲しくないような。そんな挟間(はざま)をルチアはずっと、あてもなく彷徨(さまよ)い続けた。

 ツェツィーリアはつまらなそうに外を眺めている。
 それに(なら)ってルチアも窓に視線を向けた。涙がこぼれないよう、流れる景色を睨みつけながら。

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