嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第23話 愛の檻 - 前編 -

「イジドーラ様、ご挨拶に上がりました」

 定期連絡に現れたカイをひと目見て、イジドーラは小首をかしげた。
 今日はやけに機嫌がいいように思える。上機嫌、と言ってもいいかもしれない。

「何か良いことでもあったのかしら?」
「はは、少しばかり」

 はぐらかしたかったのか、挨拶もそこそこにカイは報告を始めた。
 言えないことなのか、言いたくないことなのか。後者ならば、子が手を離れていくような寂しさを感じてしまうイジドーラだ。

「そう言えばイジドーラ様、フーゲンベルク家と正式に提携したそうですね」
「ええ、少しは国庫の足しになるでしょう?」
「ああ……この冬もやはり備蓄が?」

 アンネマリーに贈られた整髪料が思いのほか良い品だった。開発したのはダーミッシュ伯爵家との話だが、発案者はフーゲンベルク公爵夫人だったらしい。
 リーゼロッテはあまり見ないタイプの貴族だ。王族として多くの人間と謁見(えっけん)してきたイジドーラでも、特に印象深い者のひとりだった。

(マルグリットの娘ということもあるけれど……)

 母娘でも性格は似ても似つかない。最後まで相いれなかったマルグリットは、遠い日に龍の元へといってしまった。
 彼女が背負わされた運命は、そっくりそのままリーゼロッテにも課せられている。

「年々冬の寒さが厳しくなってるのは何なんでしょうね。雪解けの時期もどんどん遅くなってきてますし」
「そうね。この国も昔は今ほど雪深くなかったと聞くわ」

 貴族だろうと平民だろうと、生産性の落ちる極寒の時期に備えて蓄えをするのが常識だ。だがここのところ長引く冬に、備蓄が間に合わなくなる地域が出始めている。
 昔から王家では有事の際に国民の(かて)(まかな)える程度の備蓄を行っている。それがここ数年、春を迎える前に切り崩されることが多くなった。

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