嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ピッパ様! ここは神域、それ以上泉に近づいてはなりません!」
「神域の泉……? じゃあここがクリスティーナお姉様が話していた祈りの泉なのね!」

 止まるどころか、ピッパは勢いよく泉にかけ寄ってきた。瞳を輝かせ、揺れる水面に手を伸ばす。

「いけません!」
「ぎゃあっ」

 泉の水を(すく)い上げた瞬間、閃光が(ほとばし)った。引き()れた悲鳴を上げたピッパが、跳ね飛ばされて宙を舞う。

「ピッパ様……!」

 無我夢中で水中の階段を駆け上がった。床に打ち付けられたピッパは、人形のように倒れ伏している。
 助け起こそうと肩を掴んだ。途端に灼熱(しゃくねつ)の痛みが体を駆け抜け、獣のごとくの叫び声がマルコの口から響き渡った。
 長い絶叫ののち、マルコはピッパの真横に倒れ込む。音を失くした神域は、何事もなかったように静けさを取り戻した。

 どれくらい時が過ぎただろうか。ピッパの指がぴくりと震え、その(まぶた)がゆっくりと開かれる。生気のない顔のまま、手のひらをついて気だるげにその身を起こした。

「マルコ……?」

 すぐそこで横たわるマルコを、不思議そうにピッパはのぞき込んだ。次いで自身の顔にペタペタと触れ、再びマルコに視線を戻す。

 何を思ったのか、ピッパは四つん這いのまま泉に近づいていった。(ふち)から水面を覗き込み、映った姿に金色の目を見張る。先ほどと同じように自分の顔に触れると、水鏡に映るピッパも同じポーズで動きを止めた。

「あは、あはは……」

 半笑いで振り向いた。少し離れた場所で、気を失ったマルコが横たわっている。

「モモ、マルコから飛び出して、ピッパ様の中に入っちゃった!」

 興奮気味に叫ぶと、ピッパは泉の中にドボンと飛び込んだ。底すれすれを潜水し、泉の中央で浮上し顔を出す。

「ピッパ様、馬鹿な女の子!」

 ケタケタと笑い声を立てながら、泉の水を掬い上げてはピッパは天井高く振り撒いていく。

「よかったね、マルコ。これからはモモがぜんぶやってあげる。マルコがいやなこと、ぜんぶぜぇんぶやってあげる!」

 バシャバシャと叩かれる水面は、拒絶することなく美しいきらめきを返した。








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