嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 泉全体が光の柱に包まれた。その中央でマルコの唇がひとりでに薄く開かれる。

「新たなる夢見目覚めたとき、東の地より災い芽吹く……小さき(ほころ)びなれど、憂いなく備えを施し侮るなかれ……放たれた幼き夢見惑わすは、(やしろ)に隠れし憤怒(ふんぬ)(うろこ)……気つけよ、選べよ、されば自ずと道は変わりゆく……」

 別人のような重い声音でマルコの口から言葉が紡がれていった。白一色に包まれて、マルコのすべてが光の(うず)に溶けていく。

 すべてが過ぎ去り、神域に静寂が舞い戻った。恐る恐る目を開けると、始めと変わることなくマルコは泉の中央に立っていた。名残(なごり)のように揺れる水面(みなも)が、蝋燭(ろうそく)の光を反射させている。

言霊(ことだま)が降りたのか……?」

 動揺する気持ちを引きずって、マルコは部屋の一角を伺った。神事が終わりを迎えたら、あの扉が外から開かれるはずだ。

「マルコ……? そんなところで何をしているの?」

 まったく予想していなかった方向から、いきなり声をかけられた。部屋の最奥で、肩に黒つぐみを乗せたピッパが不思議顔で(たたず)んでいる。
 一瞬、何が起きたか分からなかった。出入り口の扉はレミュリオたちが見守っている。神事の最中に誰かを入れるなど、絶対にあり得ないことだった。

「ピッパ様……いったいどうやってこの中に……」
「そんなの、そこの扉から入ってきたに決まっているでしょう?」

 ピッパが振り返った方向は、扉がある場所とは真逆の壁だ。

「マルコこそ水に浸かって寒くないの?」

 歩み寄るピッパにマルコは顔を青ざめさせた。夢見の巫女以外の人間を、決して泉に近づけてはならないと言われている。

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