嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第26話 だんまりの王

 ブルーメ子爵領はブラオエルシュタインでも北方に位置している。一年の大半が雪に(うず)もれるこの土地は、それでも花の産地として有名だ。希少種の薔薇をはじめ、様々な花を王家に献上するのが昔からの習わしとなっていた。

 平たく言えば花と雪しかないド田舎で、街に出ても大した娯楽もなかった。王都で流行る話題が数年遅れでやって来る。そんな刺激のない場所に、ベッティは違和感なく溶け込んでいた。
 ブルーメ家の屋敷では、初めこそよそ者扱いであまりいい顔をされなかったが、使用人に取り入るなどベッティにとっては朝飯前だ。今ではルチアのお気に入りの侍女としてすっかり受け入れられている。

「ルチアお嬢様は少々頭痛がするとのことでぇ、朝食はお部屋で済まされたいとのことですぅ。わたしが運びますのでぇ、準備してもらってもよろしいですかぁ?」

 (せわ)しない朝の厨房を覗き、料理長を捕まえた。

「それはいかんな。すぐに用意しよう。今朝はお嬢様のお好きなプレッツェルが一等上手く焼けたんだが、消化の良さそうな料理も作った方がいいだろうか?」
「食欲はおありのようですからぁ、気分で選べるように種類多めで用意していただけると助かりますぅ」
「おお、それがいい。残しても気にしないようお嬢様に伝えてもらえるかい、ベッティ?」
「もちろんですぅ。料理長の気遣いにぃ、きっとルチアお嬢様もおよろこびになられますよぅ」

 恐らく全部平らげることになると思うが、そこはそれ言う必要などないだろう。そんなことを思いながら、ベッティは朝食を載せたワゴンを押していった。

「朝食をお持ちしましたよぅ」

 天蓋の降ろされた寝台へ声がけするも、ルチアはまだ寝入っているようだ。
 仮病も大げさになりすぎると医師を呼ばれかねない。部屋に誰も近づかないよう根回しはしてあるが、いい加減起きてもらわねば不審がられてしまうかもしれなかった。

「ルチア様ぁ?」
「ふぁ、おはようベッティ」
「カイ坊ちゃま……」

 天蓋のカーテンを割って、現れたのはあくび交じりのカイだった。辛うじて下は履いているが、シャツを羽織っただけな上、寝ぐせで頭がぼさぼさだ。

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