嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「まったくぅ、そんなお姿で出てきたりしてぇ。誰かに見られでもしたらどうなさるおつもりですかぁ?」
「はは、ベッティじゃなかったらちゃんと隠れてるって」

 悪びれもせず、カイは皿から料理をつまんで口に放り込んだ。ふたり分の料理を部屋に運ぶ理由(いいわけ)も、最近では慣れたものだった。

 ブルーメ領に戻ってからというもの、カイはそこそこ頻繁にルチアに会いに来ている。遠方の地からの連絡でタイムラグはあるものの、いつ頃来れそうかをこまめに伝えるようにもなっていた。
 ルチアはルチアで、カイの訪れが遅れたとしても一切文句を言うことがなくなった。ふたりして、どんな心境の変化があったのやらだ。

 ベッティにとってカイの意思は絶対だ。いろいろと思うところはあっても、繰り返されるふたりの逢瀬をベッティは黙って見守っていた。

「そうだ、ベッティ。オレが出した課題だけど。ベッティが前に言ってたように、リーゼロッテ様の元に行くってことでいい?」

 突然の問いかけに、ベッティはカイの顔をじっと見た。
 いつかいなくなるカイのために、ベッティは安寧の地を探すよう随分と前から言われていた。
 どんなに残酷に思える約束だとしても、カイの望みならベッティは守るしかない。すべてを覚悟したような、こんな目をしたカイを前にしては尚更だ。

「その件なんですがぁ、やっぱりわたしこのままルチア様のそばにいようかと思っててぇ」
「ルチアの? でもここじゃ退屈すぎるでしょ。オレに気を遣ってるなら必要ないよ?」
「いいえ、そう言うことではなくてぇ。市井(しせい)育ちのルチア様とは思いのほか気が合いましてねぇ、わたしも案外毎日たのしいんですよぅ」

 デルプフェルト家の任務はいつでもスリリングで、ベッティにしてみれば生き甲斐みたいなものだった。そういった意味ではリーゼロッテのところにいた方が、この先も波乱万丈な人生を送れそうだ。
 だがベッティはどうしても確かめたかった。ただひとり、カイが選んだのがなぜルチアだったのかを。

 冷たくカイに捨てられて必死に追いすがる女たちを、これまで山ほど目にしてきた。最期を迎えるその瞬間まで、カイは孤独のまま逝くのだろう。ずっとそう信じて疑わなかったベッティだ。

< 425 / 484 >

この作品をシェア

pagetop