嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第29話 砦の輪舞曲 - 後編 -

 カイから届いた報告書を前に、ハインリヒは無意識のまま眉間を指で押さえた。

(……思った以上に事態は深刻だな)

 オーランウヴスの手の者は、すでに国内に入り込んでいるようだ。できるだけ小さいうちに芽を摘んでおかないと、国を巻き込んでの騒ぎになりかねない。
 アデライーデの件もあり、辺境の砦へ伯父バルバナスを送り込むことに一度は躊躇(ためら)いもした。だが今となっては英断だったと言えるだろう。

 二十年ほど前、オーランウヴスはブラオエルシュタインへと攻め入ってきた。その戦でいちばんの武勲を上げた者こそが、当時騎士団長の地位に就いたばかりのバルバナスだ。
 迎え撃つ敵が厳しい山脈を越えてきた少数部隊だったこともあり、被害少なく戦いはすぐさま終結したと聞いている。

(さき)の侵略は、功を焦った者による杜撰(ずさん)計画(もの)だったらしいが……)

 隣国はそのときの失敗を踏まえ、今回は用意周到に攻め込むつもりでいるのかもしれない。雪解けの春を迎える前に、潜伏組織の実態調査を終えることが急務と言えた。

 ――なぁに、放っておいても青龍が良きように収めるわい
 ――そうじゃ、すべては龍の思し召しじゃ

 楽観的な声が頭の中で木霊する。

「わたしは傀儡(かいらい)の王になるつもりはない」

 顔をしかめ独り()ちた。無駄なあがきと笑われようと、言いなりの操り人形でいるのは願い下げだ。
 ましてや戦争となると民の命に関わる最大の有事だ。思い過ごしの徒労に終わったとしても、指を咥えて龍の助けを待つなど、ハインリヒには到底受け入れることはできなかった。

 ――そんなにも青龍の加護が信じられんか
 ――今代の王は龍への不信感が根深いのう

(そんなもの当然の結果だろう)

 そうさせたのは青龍自身だ。心の中で毒づきながら、ハインリヒはさらにしかめ面となった。

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